2013年4月27日土曜日

最近買ったCD〜Mutant Disco Vol.3

最近あんまお金ないんですけど、700円だったので買ってしまいました。
『Various Artist / Mutant Disco, Vol.3』


  ZE recordsという、70年代末から80年代の半ばにかけてNYを拠点に活動していたレーベルのコンピレーションの第三弾。ZE recordsはこちらの記事に詳しく書いてあるけれど、当時いちばんフリーキーだったパンクだったり、ゲイディスコだったり、もしくはニューヨーク・サルサの流れを汲んだ異形の、まさにミュータントなポップミュージックを紹介し続けたレーベル。彼らの音楽は本当に最高だと思います〜いま述べたようなさまざまなスタイルの音楽がひとつに同居していて、先鋭的でもあるし、いまの耳で聴いても(むしろ、いまの耳で聴くと)とってもクールでキャッチー。茶目っ気があって、絶対笑わせてくれる。

 70年代末から80年代の頭にかけての音楽は、パンク〜ニューウェイブ・ポストパンクにディスコにヒップホップ、ワールドミュージックといった、新しい音楽ジャンル(それも、意欲的な)が続々と登場してきたこと、活動上の自由度が高いインディレーベルの存在が大きくなってきたこと、楽器(リズムマシンだったり、シンセサイザー。もしくはエフェクター)や録音における技術的発展があったことなどなど、様々な要因があったとは思いますが、とにかくポップミュージックが一番おもしろかった時代なんじゃないかなって、僕は思います。60年代の大きな夢のあとの、70年代のやぶれかぶれな時期が過ぎていって、またちょっと浮かれだそうとしているような空気も影響してるかもしれない。いろんなことにチャレンジしようとしていたし、そういう実験をポップな方向に帰着させようとする雰囲気があった。だから、いろいろ音楽探してても、「79年作」ってだけで買ったりします。

Kid Creole & The Coconuts

 ZE Recordsの音楽は、CBGBだとかパラダイスガラージといった、いまでは伝説となっている場所でかつて鳴っていた音楽の流れにあります。あの時代、それらの場所、そこに集まる人々、その人たちが表象している文化というのは、社会的な立場は確実に低かったと思います。つまりアンダーグラウンドだった。ゆえに猥雑で、どこかズレている。そんなミュータントな人々の汗だったり、息づかいのようなもの—言い換えれば生きていた証が伝わってくるのが魅力のひとつ。それと、ニューヨークのストリートカルチャーを表現するのに「人種のるつぼ」ということばがよく使われると思うのですが、たとえばヒップホップは黒人たちのものであるように、"それぞれがそれぞれの領分のなかで暮らしている"という感じはあったのかなと思います。ちょうどこの前DVDでみたジョン・セイルズのNYを舞台にした映画『ブラザー・フロム・アナザー・プラネット』で、地下鉄に乗っててハーレムの駅のひとつ前なんかになると、乗客の肌の色がオセロをひっくり返したみたいに変わるというシーンがあったけど、そんな感じ。つまり、「るつぼ」とは言うものの、それぞれはそれぞれに独立していたんじゃないか、ということです。Talking Headsは、ライブに黒人メンバーを混ぜてやったりしてたっけ。あれはどうなんだろうなー、頭のいい白人が都合よく黒人を借りてきたように見えるんだよなー。たしかに素晴らしいけど。ZEの連中は、人種も性別も全然関係ない感じがして、それもいいなって思います。本当の意味でチャンプルーな存在というか。そもそも、ZE創業者であるマイケル・ジルカとミシェル・エステバンはヨーロッパ出身。そんな二人がNYに飛び込んでやってる以上は、自然と混交的になっていくのかもしれない。

Was (Not Was)

 今回買ったコンピレーション第三弾は、SuicideのメンバーであるAlan Vegaの"Outraw"という曲の、August Darnell Remixが気になって購入。オーガスト・ダーネルは、これまたスペーシーでエキゾチックなディスコミュージックでおなじみ、僕の大好きなDr. Buzzard's Original Savannah Band(名曲 "Sunshower"は、小沢健二 "おやすみなさい、仔猫ちゃん!"の元ネタのひとつ)の主宰者であり、Kid Creole & The Coconutsのキッド・クレオールその人です。まあ正直なところ、このトラックは期待したほどでもなかったかな。"移民の歌"を引用したRon Rogers "Maladie d'Amour"や、Kid Creole & The Coconuts "Something Wrong In Paradise (Larry Levan Mix)"とかがよかった。
 
 なかでも耳を引いたのはDaisy Chain "No Time to Stop Believing In Love" ゲートエコーバリバリのスネアとシンセとハードなギターがすんごい微妙な感じのトラックにいきなり日本語で、これまた微妙な感じの歌ともラップともつかないような女性の語りが入ってくる。このとてつもなく微妙な感じが、いまの僕らにはかなりジャストだったりするわけですけど。英語・日本語・フランス語・スペイン語・ドイツ語で歌うシンガー5人で結成された、インターナショナル・ユニットというのがまた……いいですね!キャズ・カワゾエという日本人のメンバーが歌詞を書いて歌っていたと。調べてみると、カワゾエさんによる当時の回顧録を発見。うーん、インターネットってすごい!サイトを作った理由も、当時のエピソードもなんとなくいい。なにより、こういう素晴らしい音源をひとつかふたつ残しつつ、闇に消えていったよくわからんグループというのはたくさんいるけれど、そういう人たちのアフターストーリーというか、その後も続いている人生をこうやってかいま見ることができたのが感動ですよね。日記読んだりして、いまは赤ちゃんタレントのブローカーやってるんだなあ、とか。



Album Review - Various / Mutant Disco Volume 3 - Garage Sale|ele-king
http://www.dommune.com/ele-king/review/album/000260/

特集: ZE RECORDS text by 田中雄二|ototoy
http://ototoy.jp/feature/index.php/20100125

デイジーチェイン・ファンサイト|キャズ・カワゾエ の COMMU☆NET
http://kazkawazoe.com/r_daisychain.html






2013年4月24日水曜日

『上坂すみれ / 七つの海よりキミの海』




 先日インターネットを見ていたら『波打際のむろみさん』というアニメの評判が書かれたブログに行き着いて、その最後に主題歌であるこの曲について少し触れてあって、ニューウェイブがどうとかロシアがどうとか、作曲が神前暁さんであると知って興味が出てきて、『むろみさん』もみてみた。ヤンキーっぽい、純愛至上主義なピュアなギャルの人魚が博多弁で活躍するアニメだった。もちろん人魚だから、SUV乗ってファミレス行ったりラウンドワン行ったりするわけじゃないんだけど。なんかこういう感じのヒロインも珍しいよな〜?とか思いながら見てた。けっこうおもしろいです。

 そんな内容のアニメに対して、この曲はとてもオタクっぽい曲だと思う。妙にサーフなティンパニーとオルガンの音に導かれて80'sジャパニーズニューウェイブ風のヴァース(調性無視のコードの動きなど、ハルメンズの上野耕路さんを意識したとか)にはじまり、スラッシュメタルなブリッジという展開。時おり差し込まれるトランペットが楽しい。ちょっと軍歌っぽいところもある。MVのロシアアヴァンギャルド風のイメージから海軍のイメージも連想されるし……上坂すみれさんが、そういった"秋葉原じゃなくて中野"なカルチャーがもともと好きで、こういう楽曲になっていたみたいです。作詞は畑亜貴さん。「もってけ!セーラーふく」を作ったこのコンビがいかにも得意としてそうな、いろいろなオタクっぽい要素がカオティックに混在しているっていう、いかにも外国人に受けそうなエキセントリックな日本人、という感じの曲。ホント、要素だけあげてみると、いかにも〜って感じがする。だけどこの電波ソングにはどこかゴージャスな響きがある……なんだろう?それが具体的にはイマイチよくわからないのだけど、サーフっぽいところがミソなのかな、という気がする。音の響き的に、この曲はレアい。それと、テンポが早すぎないところ。BPMがあと10とか20くらい早かったら、ヒャダインさんの曲みたいにせわしなくなってたかもしれない。



2013年4月22日月曜日

『ハナエ / Boyz & Girlz』




 今週はRECORD STORE DAYという米国発のレコード店のお祭り週間ということで、日本でもこれに合わせて限定アイテムの発売などがあり、今回はその中から坂本慎太郎さんのリミックスか、安藤明子さんの7inchカットについてにしようかな、と思っていたのですが、当日お店(新宿のディスクユニオン本館)に行ってみたところ、もう遅い時間だったこともあってすでにそれらのレコードは品切れ……だったため、何にも手に入れていません。RECORD STORE DAYって案外盛り上がってるのかなー、日本事務局ができて今年で二年目とのことだけれど、去年は期間が終わってもけっこう残ってたりしたんです。去年は、カーネーション『天国と地獄 / 愛のさざなみ』モノラル7inchを買いました。島倉千代子のジミヘン風轟音名カバーをモノラルで聴いてみたくて。この盤は店によってはいまだに残っているのではないだろうか?

 例のごとくiTunesStoreのニューリリースコーナーを見て、ハナエという歌手が新曲を出していることを知る。ハナエって、あのCSSのLovefoxxのソロか?!と思って飛びついたものの、普通のオシャレな感じの、日本人の女の子だった。このシングル、元相対性理論の真部脩一さん作詞・作曲・編曲ですね。もう誰もが思うだろうけど、相対性理論の曲にしか聴こえないですもの。バンドサウンドではなく打ち込みサウンドとはいえども。相対性理論にしか聴こえないというのことは別にいいと思うんです。相対性理論の各メンバーは、この五年くらいかけて「相対性理論印」みたいなもの、ひとつのポップスの類型、雛形を作り上げた。結局、ポップスの正統性みたいなものは、そうやって広く認知されることでしか証明できないわけです。アメリカのポップスの模倣から始めたはっぴいえんどやティン・パン・アレーの面々は長い年月をかけて、日本のポップスの歴史のなかで"本物"になっていった。YMOやムーンライダーズだってそうだろうし、奥田民生なんかもそうかもしれないし、小沢健二と小山田圭吾のふたりも、洋楽のまがいものから始まって本物になっていったわけですよね。フリッパーズ時代の小山田さんが20年後にオノヨーコや坂本龍一と同じバンドで演奏するなんて誰も想像しなかったはず。だからなんにせよ、こういうひとつの型を作り上げたことは本当にすごいことです。

 それはそうとして、このハナエという女の子はそれでいいのか。ウィキペディアを見てみると、12歳から宅録を始めて、曲を作ってその世界観なりなんなりが認められてデビューしたとある。音楽のほかにも小説やら漫画やら映画やらいろいろ好きで、"コダワリ"がありそうな感じじゃないですか?……美人界でのポストモダン化が進みすぎて、「美人かつクリエイト能力アリ」みたいな人間が跋扈する(日南響子がDTMやってるのが一番ショックだった)このセルフプロデュース盛んな時代。彼女の自作曲を実際に聴いたわけではないけれど、もし能力があるんだったら、単純にひとつの類型にわざわざハマりにいかなくてもいいじゃないかとは思いますよね。「ただそういうのがやってみたかった」のだとしても、少なくともシングルを切ってまでやる必要はないでしょう。どんな事情があってそうなったかも知らないですけどね。おそらく"大人の事情的"な理由からだろうから、それは担当のディレクターたちに「独特の表現を作っていこう」という意欲を持ってほしいところ。美人の人はただでさえ苦労が多いと思うし求められることがどんどん多くなってるけれど、頑張ってほしい。本当はあんまり頑張ってほしくない(美人以外の人の生きる道が減るから)。



 

2013年4月10日水曜日

『あだち麗三郎 / ベルリンブルー』



 あだち麗三郎さんの7インチレコードです。カクバリズムからのリリース。これは久々にいい曲を聴いたなーという感じ、あります。ツイてるー!

 「君の心はとても素敵だからベルリンブルーと呼んでみないか」「マンハッタンはラプソディブルー / あからさまなパノラマ / いつでもここに戻っておいで」音楽ってこういう風に想いを馳せていて欲しいよなって思いますね。再三言われていることながら、世界はずいぶんと狭くなってしまったように思えるけれど、お前は海の向こうにロマンを感じないのか、ということですよ。五木寛之の『青年は荒野をめざす』みたいな、ジャズ青年がひとりで客船に乗って世界を旅して、音楽や恋に出会ったりするなんて一連の流れに!そういうロマンチックなものがわりと僕は好きだったりするんですね。それは小さい頃によく連れていかれた横浜の港の風景がイメージとしてあるのか、ポケモンの「サントアンヌ号」で流れるBGMになぜだか心惹かれるものがあったからなのか……わからないけれど、いまはこういう憧憬みたいなものは、昔の映画とか音楽のなかにしか存在しないのかなと思ってしまいます。いや、思っていました。しかし、ceroの鍵盤奏者、荒内祐さん作曲によるオリエンタルなメロディーは異国情緒をかき立ててくれますね。70年代に細野晴臣さんがやってきたチャンプルーミュージックも、"ここ以外のどこか"に想いを馳せる音楽だったはず。すごい好きだった「北京ダック」とか、ちょっと思い出した。失敗しない生き方の天野さんはツイッターで加藤和彦を引き合いに出していた(気のせいかもしれない)のが印象に残っているけれど、それもなんとなくわかる。どこか洒落ていて、欧米志向なあの感じ。あと、口をあんまり開かずに歌ってそうな感じが似ているんだと思う。

 まあ、あんまり言葉で語りすぎないところがいいんでしょうね。「ベルリンブルー」という言葉だけで旅情みたいなものが十分伝わってきますし。ちなみにベルリンブルーっていうのは紺青色の呼び方のバリエーションのひとつらしいです。この曲はスティールドラムなりチェロなり、楽器がそれぞれソロをとる部分がけっこう長いですよね。メロディが自由に語りはじめるということは、"ここにある音楽"が"古今東西の音楽"へとリンクしようとすることだ。僕らはその音に想いを重ね、想像を巡らすことで、「トリップ」することができるんだと思う。そしてそれは、たしかな技術があってのことだと思います。ホントに、饒舌な音楽です。B面のTUCKERさんのカバーも素晴らしい!