2017年12月31日日曜日

2017年のマンガ

なんといっても今年は『けものフレンズ』が大きかった。我々はどこから来たのか、我々は何者か、我々はどこへ行くのか。いまだに自分はこの問題こそがあらゆる行為の原動力になっている。群れを求めて旅を続ける姿は人生そのものなのだが、答えにたどり着くこと以上に同じ目線で歩く仲間がいることそれ自体が尊いのだとつくづく思う。種族を超えたトライブ・コールド・クエストである。『20センチュリー・ウーマン』の存在も大きい。違う世界、違う世代から来た我々は一緒に踊ることができるだろう。不格好だとしても我々には連帯を試みてきた歴史がある。困難は群れで分け合え。書影クリックでアマゾンに飛びます。


1. 板垣巴留『BEASTARS』



動物の擬人化は多様性や共存のメタファーとしてあまりに雄弁すぎるものだが、「ズートピア」の正しさに息苦しさを感じた人は読んで得るものが絶対にあるはず。建前だけではない混沌とした世界を若者たちの青春群像劇として描き出してしまうこの手腕はいったいなんなのか。疑問を抱きながら自分の意志で未来を選び取ろうとする姿に胸を打たれる。

2. 西村ツチカ『北極百貨店のコンシェルジュさん』



その『BEASTARS』に触発された部分が大きいという本作は、これまでも西村ツチカ先生の作品をずっと読んできたけれど、あらゆるお客様を暖かく迎え入れる最高傑作ではないかと思っている。心にじんわり染み込む物語とキャラクターの表情が魅力的で、それは言葉にすればシンプルだけれど、この奥深さと説得力には唸るほかなし。

3. 永椎晃平『星野、目をつぶって。』



諦めの時代だからこそ人は変わっていくことができるかを問う青春の物語が必要なのだと思う。容姿とスクールカーストの問題を描いた物語として『圏外プリンセス』という作品があったが、本作は主人公が魔法を与える側であるところに捻りがある。そしてこのロマンチックなタイトルの意味を反転させる第6巻の展開が実に見事だった。

4. 吟鳥子『君を死なせないための物語』



2014年のベスト『アンの世界地図』(今年ようやく徳島に行けました!)に続く新作。舞台設定は現代日本から遠い未来の宇宙へと大きく移るも、いま描かれるべき問題がズバリと描かれている。合理性至上の世界ではかない命が生きる意味とはなにか。虚無を超えるために必要なものはなにか。等身大の恋愛ではなく壮大なロマンを描いていたかつての少女マンガを愛する人は必読。

5. 施川ユウキ『銀河の死なない子供たちへ』



永遠を生きる子供たちをめぐる果てしない旅の物語。『火の鳥』へのトリビュートでもあるのだろう。円周率や黄金比らせん、生と死、時間。世界の理(ことわり)を撫でているかのようなゾワゾワ感。『オンノジ』や『ヨルとネル』と通底する部分もあるが、本作のスケールの大きさはひとつ抜きん出たものがある。

6. 横田卓馬『シューダン!』



サッカーマンガだけれど社会性に関する話でもある。なので「集団」というタイトルが秀逸。もちろん少年マンガとしての熱さや甘酸っぱさもある。この作家は普通の子が自分の頑張ってることで活躍を見せる一瞬の輝きを描くのが本当にうまい。『ゆらぎ荘』がフェミニストから反発を喰ったジャンプだが、これと『鬼滅の刃』と『Dr. Stone』も載ってるところに時代を感じる。

7. 鳥飼茜『先生の白い嘘』



鳥飼茜イヤーとなった本年、同じく完結した『地獄のガールフレンド』の方を挙げようか迷ったものの、パワーあるエンディングだったこちらを。「男 vs. 女じゃなくて誠実な人 vs. そうじゃない人とか、もっと複雑」(三田格さん)というのはそうとして、最後の最後まで受け止めあぐねていたのだけれど、主体性を取り戻せという話でよかったです。

8. 能條純一/半藤一利/永福一成『昭和天皇物語』



たったひとつの人生を生きることの峻厳さ。平成終了を目前に昭和史への関心の高まりを感じる(『疾風の勇人』連載終了は残念でした)が、第1巻で主に描かれるのは明治末期、若きヒロヒトに帝王学を学ばせようとする学習院と御学問所を舞台としたドラマであり、日本の近代ひいては神代からの成り立ちを意識せざるを得なくなる。どれだけ大きな話になるのだろうか。

9. 近藤聡乃『A子さんの恋人』



いまさらかもしれないけれど、この最新刊がとてもよかった。友達の友達の女の子が「A太郎はしつこくて嫌」的なことを言っていたらしいのだが、でも、I子ちゃんにしろ、超然としているように見えるA子ちゃんにしろ、その割り切れなさが人生じゃん? と20代を敗走したかつての若者としては思っている。

10. 植芝理一『大蜘蛛ちゃんフラッシュ・バック』


なにはともあれ植芝理一の新作である。「母が怖い」と話題の『血の轍』に比べて、ただただお母さんがかわいいだけの本作のいとおしさよ。何度も言っているけれどアニメ化した暁にはスピッツの「タイムトラベラー」をエレクトロ風にカバーした、大蜘蛛ちゃん役の声優(新人)が歌ってるやつがエンディング曲になってほしい。


そのほか、注目作品としてサワミソノ『丁寧に恋して』(日本と台湾の絶妙な地理的&心理的距離感がよくよく描かれてる)、山川直輝/朝基まさし『マイホームヒーロー』(非常に面白いサスペンスですが、この作品は「親の心子知らず」に尽きる)、つくしあきひと『メイドインアビス』(アニメも素晴らしかったがこの原作は本当にすごい)、岡田麿里/絵本奈央『荒ぶる季節の乙女どもよ。』(「思春期と性」という永遠のテーマですが、女子たちが主人公で。そしてこれも別冊だけど少年マガジンなんですよね)、江野スミ『亜獣譚』(前作『たびしカワラん!!』も読んだ。センス溢れる才能)、ヤマシタトモコ『違国日記』(あまりちゃんとしてない大人としてはやはり…)、たいぼく『島とビールと女をめぐる断片』(同人誌。青春の2ページ目の扉が開くロードムービー!)などがありました。

2017年12月30日土曜日

2017年の音楽

【BEST NEW ALBUM】


1. CHAI『PINK』[Listen]
2. Pierre Kwenders『MAKANDA At The End Of Space, The Beginning Of Time』[Listen]
3. Rafael Martini Sextet Venezuela Symphonic Orchestra『Suíte Onírica』[Listen]
4. Sam Gendel『4444』[Listen]
5. JAZZ DOMMUNISTERS『Cupid & Bataille, Dirty Microphone』[Listen]
6. Rodrigo Campos, Juçara Marçal e Gui Amabis『Sambas do Absurdo』[Listen]
7. 伊集院幸希『NEW VINTAGE SOUL 〜終わりのない詩の旅路〜』[Listen]
8. Ronald Bruner Jr.『Triumph』[Listen]
9. CASIOトルコ温泉『ゆ』[Listen]
10. 柴田聡子『愛の休日』[Listen]
11. potato-tan『Tobu Tobu Girl OST』[Listen]
12. Ben Varian『Quiet FIll』[Listen]
13. The Magnetic Fields『50 Song Memoir』[Listen]
14. Capitol Swizzle Credit『Swizzle 4: Crust Judgement』[Listen]
15. 公衆道徳 공중도덕 Gongjoong Doduk『公衆道徳 공중도덕 Gongjoong Doduk』[Listen]
16. Chiquita aka. Isis Giraldo『CHIQUITA MAGIC』[Listen]
17. feather shuttles forever『feather shuttles forever』[Listen]
18. Fleet Foxes『Clack-Up』[Listen]
19. King Krule『The OOZ』[Listen]
20. Boys Age『New World Pregnancy』[Listen]

かつての自分は自分がカルチャーを謳歌することに重きを置いていて、それはいまもそうなのですが、しかし自分じゃない誰かがカルチャーを謳歌している様子を眺めることにも大きな喜びを感じている。周りには音楽を愛する人がたくさんいるので、彼らが熱く語り合ったり、リズムに合わせてステップを踏んでいるのを見ているだけでも僕は嬉しいなと感じた1年でした。順位に正直あまり意味はないです。[1] いちばん繰り返し聴いたので。コアなリスナーからなめられてる気がするのだけど、めちゃくちゃいいじゃないですか?行き届いたプロデュース、チアフルな歌詞、ダイアナ・ロス系の歌声が魅力です。 [2] アフロポップなのだけど、アフロアフロしていない、不思議な混淆音楽。[3] 音博でのアレシャンドリ・アンドレスとの共演、やばかったです。[4] 黒いスフィアン・スティーヴンスだと思っている(白人だが)。[5] 全然ヒップホップじゃないところが好きなのかなと。大谷能生とアンディ・パートリッジの顔が激似であることに気付いた一年でもある。[6] ブラジルの人ですね(よくわかってない)。エクスペリメンタルな音響世界![7] アヴァランチーズ『ワイルドフラワー』に筒美京平のサンプリングでアンサーする心意気に惹かれる。[8] サンダーキャットの兄。コールドプレイみたいなスピリチュアルジャズだと思った。『ドランク』よりこちらを推したい。[9] 四国と関西まで友達に会いに行ったのだが、その友達たちが話題にしていて知った。大阪・大正のファミマでも流れてた。[10] 鳥飼茜先生とのトークイベントよかったです。[11] この2017年にゲームボーイ専用として発表されたゲームソフトのオリジナルサウンドトラック。『ディギン・イン・ザ・カーツ』もよかったんですけど、僕が好きなサントラ音楽(ゲームに限らず)はこのラインだなと。[12] 中華風のマック・デマルコ。[13] 5年ぶり5枚組50曲。サム・ゲンデルもそうだけど、岡村詩野さんか僕しか聴いてる人がいない気がする。[14] 強烈なマスロックですが、この人の音楽は全部フランク・ザッパ以上の悪意を感じるので大好き。[15] アシッド・フォークの天才を定期的に輩出する韓国の宅録音楽。Lamp のレーベルより。[16] 先日、もろほしさんと数年ぶりに再会した際、「ジャズザニューチャプターとはなんだったのか?」みたいな話になったのですが、イシス・ヒラルドはよかったなと思いました。[17] 中学ではバドミントン部でした。[18] ダーティ・プロジェクターズやグリズリー・ベアもよかったのですが、オーセンティックな音楽性ながらサウンドの質感に気合いを感じる。[19]「ドンキー・コングのラスボスが名前の由来だ!」と絶叫してたんですが違うらしいです。『ソードフィッシュトロンボーン』とかのトム・ウェイツを思い出しました。[20] 未来版ブラック・ジャックと名高い傑作コミック『AIの遺電子』へのトリビュート!



そのほか、言及しておきたいリリースとしてミツメ『エスパー』(ひさびさにいい曲。スピッツの引力を改めて感じる)、くるり『How Can I Do?』(ミドルテンポのグルーヴィなチェンバーポップは最高ですあおい (井口裕香) & ひなた (阿澄佳奈)『おもいでクリエイターズ』(うたたね歌菜氏、Tom-H@ck氏に引けを取らない才能では)、どうぶつビスケッツ×PPP『フレ!フレ!ベストフレンズ』(年末進行の本当に厳しいときに頭の中で流れていた音楽)、伊藤尚毅『デモテープ』(漫画雑誌『架空』の付録。伊藤君の今後に期待)、石若駿『SONGBOOK II』(若手ナンバーワンドラマーのポップソング集。ちゃんと話題になってるのか?)があります。年間ワーストは『流動体』『フクロウ』です。ありがとうございました。

2017年3月7日火曜日

菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラール Tour 2017 “凝視と愛撫の旅団 brigada mirada y caricia” 3.6 mon. 2nd SHOW

菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラールを観に行きました。小鉄さんのブログに触発され、観に行きたいと思ったからです。

『戦前と戦後』はその年の私的ベストに選ぶくらい好きな作品だったけれど、そんなに熱心なファンではないですね。いや、著書も何冊か読んでるからわりとファンなのかな。他のプロジェクト含めてライブを観に行くのは初めて。ただトークイベントは一度行ったことある。『戦前と戦後』の購入者特典で当選してチケットもらった。懸賞好きなんだよね。ただ、曲名をちゃんと把握してる楽曲は少ない。「京マチ子の夜」を学生の頃、音楽文化論の授業の終わりの方に、先生が「ミュージックビデオがエッチなので、堂々と流すのはまずいですから、電気を消します」と言って、女がバックから挿入されてる映像にあわせて、暗い教室で聴いた記憶がある。名前しか知らなかった菊地さんの音楽を聴いたのはあのときが初めてだと思う。

今回はブルーノート東京ということで、僕、職場が神保町なので、残業はそこそこに切り上げて、表参道まで半蔵門線で一本。前にマーク・ジュリアナを観にビルボードに行ったときも思ったけど、この手のライブハウスは最高だと思う。なんというか、僕は10代の半ばから20代の前半までインディロックのバンドマンだったのだけど、ライブハウスという空間は全然好きになれなかったですね。ホスピタリティがないし、あまりときめくものがないじゃん。いや、あれはあれでロマンがあるのはわかるけどね。でも、高級なライブハウスにしか行きたくない。僕なんか別にお金持ちじゃないですよ。しょせん高卒だし、たいしたお給金もらってません。でも、そんな人間がちょっと贅沢するだけで気取らせてもらえる場所がいま、どれだけあるかなー? ジャケット着て、革靴履いて、前髪とか上げちゃってさ。音楽、暗い照明、お酒、素敵なサービス。しがない労働者として夢を買いに来てるんだな。とはいえ、ボリュームたっぷりのフライドポテトとホームワインをデカンタでオーダーするだけでも一公演じゅうぶん楽しめるので、厳しいなーと思ってる人も、ちょっとだけ貯金して行きましょう。

「天使の恥部」と申します。

『昭和が愛したニューラテンクォーター』(DU BOOKS)という本があって、これはかつて赤坂に存在したナイトクラブ、夜の社交場、昭和のショー・ビジネスを築いたオーナーが当時の記憶を語っているものだけど、なんというか、音楽が芸能だった時代への憧憬ってあるよね。小鉄さんが先のブログでも触れていたけれど、ペペという楽団はそういう時代の空気を現代に蘇らせようとしているグループだと思う。菊地さんもラジオでオススメしていた本なので興味ある方は是非。



しかし、どいつもこいつも、綺麗な服着て、高いチャージを払って、変な名前のカクテル飲んで、ストレンジ・オーケストラが奏でるトーンクラスタとポリリズムをわざわざ聴きに来ているのだなあと思ったら痛快だった。ツアーのファイナルで二部公演の後半だったからか、予定の時間を大幅にオーバーして熱のあるセッションを堪能させてもらった。バンドにはスウィートなナンバーも多々あることは知っていたが、そっちのレパートリーはさほど披露されず、スリリングな楽曲が多かった気がする。なんにせよ曲名がわからないのですが、たぶん公式にセットリストがアップされているのでは。ブルーノートは箱が小さいので、アンプリファイドされていない生の音が聴こえてくるような規模感(実際はPAシステムがありますよ)なのが、古風なショーを思わせてイイ。もっと爆音で聴きたいなと思うタイミングもあったけれど。

着いた席が上手側だったので、ストリングセクションの様子を伺いやすい位置だった。細かく刻まれるボーイング。鋭いビブラート。迫力ありましたね。第1バイオリンのソロはインプロだったのかな(基本的にクラシック系の弦楽器は楽譜ありきの演奏なので、バイオリンなどを即興演奏できる人はどちらかといえば珍しい)。国内でこんな刺激的な四重奏が観れるのに「カルテット」観てる場合か。関係ありませんね。バンドネオン、最高。この楽器は息を吹き込んでいるようで実際はふいごで空気を送っているわけだが、息づかいをシュミレートする楽器、エロいと思う。高校生のとき『コインロッカー・ベイビーズ』を読んで初めて存在を知ったな。大儀見氏のパーカッションもよく見えました。

誤解を恐れずに言えば、こんなに情欲を焚きつけられるステージなのだから、観客はもっと騒いでもいいと思う。帰ってから肉を焼いて食べました。