2013年7月10日水曜日

『渡辺麻友 - ラッパ練習中』




 AKB関連の音源を購入したのはこれが初めて。当然、このブログで扱うのもこれが最初になる。先日、歌番組で披露されたAKB48の新曲『恋するフォーチュンクッキー』(Youtubeに調度いい音源がアップされていない……)が、なかなかの佳曲だった。個人的にはAKBには露悪的であれとは言わずとも、もっと俗っぽい(良い意味で、である。役割というものがあるからだ)存在であって欲しかったとも思うのだけれど、いい曲を作ることに当然罪はない。今回取りあげるこのシングルも、悪くない。ブラスセクションをフィーチャーした楽曲で、大きなギミックが仕掛けられているわけでもないが、ポイントを押さえながらまとめられていて、それなりに楽しく聴ける。


 歌詞。おそらく受験生の、冴えない男子高校生が主人公というのは良い。歌われているのは、行きつけの近所のファミレスの店員が可愛いというだけの、本当にそれだけの内容だ。どうしてそんな歌を渡辺麻友が歌うのか? しかし、これは男に歌わせても、物凄くジメッとした情けない童貞ソングにしかならないんじゃないか。おそらく、この感じを、男子がキラキラとしたフィーリングをもって体現する磁場は、この国には既に存在しない。ジャニーズ事務所で目下一番若いグループであるSexy-Zoneに歌わせたとしても、なかなかこうはならないと思う。たとえ可愛い顔の男の子がいたとしても、こういう曲に求められるような「良い意味で情けない」キャラクターは、少なくともマスの場では成り立たなくなっているんじゃないかな。というのも、最近のティーン・ポップスなり少女漫画なりは、マセすぎな気がするのよ。小学生にしてギャル男を標榜する盛りヘアスタイルのキッズが実在するこのご時世、二枚目であるということが低年齢化しているし、だいぶ意識的というのはあると思う。もちろん、これも物事の一面しか捉えられていないだろうが……。いまこの国でボーイズ的なものが商品としてパッケージングされるには、『テニスの王子様』みたいにエクストリームな馬鹿になるか、鈴木福くんみたいに情操教育上都合の良い去勢された可愛いさを装うか、EXILEみたいにマッチョの不良になるかのどれかしかない。


 それはさておき、『ラッパ練習中』に戻ろう。言葉遣いにところどころ古臭さを感じるなー。「○○だろう」というような言い回しにはどこか古き良き文学少年の、朴訥なナイーブさがある。なんだかNHKの『みんなのうた』みたいだし、溌剌とした笑顔を見せる渡辺麻友の“健康的なハメの外し方”も、「うたのお姉さん」に近いものを感じる。どうやら、トランペットのラッパと、コーラのラッパ飲みとをかけているらしい。ふむ……これはこれでいいのだけれど、「ラッパ練習中」というテーマの曲であるのであれば、たとえば、セルジュ・ゲーンスブールだったらもっとエゲツない意味を込めてくるのではないだろうか。まず、歌詞の主人公は男性に設定せず、歌手と同じ女子にする。内容は現在のバージョンのままで、ところどころの辻褄を合わせるだけで十分だ。そこで「ラッパ」とは何を指すのか。この場では明言しないので、察していただけるとありがたい。いや、本当に下世話で申し訳ないのだけれど、ゲーンスブールの頃のポップミュージックは、そういう意地悪な捻りを持ちうることが可能だったというだけのこと。ただ、秋元康は『セーラー服を脱がさないで』の頃からスキャンダルであろうがとてもストレートでわかりやすいというか、婉曲的なダブルミーニングを用いるようなことをする人間ではないかもしれないけれど。









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告知です。

『流動化する都市大衆音楽/そのゆるやかな衰退と隆盛にまつわる三つの中間報告』
2013.08.03(SAT) at 下北沢mona records
【出演】 失敗しない生き方 / ふるえるゆびさき / Love and the Krafts
【司会】 マーライオン
【時間】 open 18:30 / start 19:00
【料金】 adv/door 共に¥2,000(+1D)

2月にリリースしたEP『遊星都市』が反響を呼んでいるベッドタウンポップバンド失敗しない生き方と、溌剌としたチェンバーサウンドで圧倒的な育ちの良さを感じさせる大学生6人組ふるえるゆびさき、そして僕のバンドLove and the Kraftsによるスリーマンです。さらに司会として、曽我部恵一との共同企画が話題にもなった20歳のSSW、マーライオンがイベントを盛り上げてくれます。予約受付中ですので、ぜひぜひご連絡ください。

2013年7月3日水曜日

『ザ・なつやすみバンド - サマーゾンビー』



 僕、今にして思えばずいぶん小さい頃から自分でCD買ってたなと。生まれて初めて買ったCDは小学校一年生の頃、入学と同時に放映が始まった『ポケットモンスター』の主題歌である『めざせポケモンマスター』。同じマンションに住んでた年上の兄ちゃんのウチに遊びにいったら持ってるのを見せられ、それで歌なんか興味ないのになんとなく僕も欲しくなっちゃって、お小遣いは貰ってたから買いにいったんじゃないかな。家から歩いて10分くらいのところにあおい書店があって、よく『コロコロコミック』や『名探偵コナン』を買いに行ってたんだけど、本だけじゃなくCDも置いてあったからたまにフラ〜っと行って『爆走兄弟レッツ&ゴー』のエンディング曲とか買ったはず。それらのCDは当然みんな8cmのシングルだった。



 ザ・なつやすみバンドは「ザ・」がつくほどその名が体を表す、ピュアでジュブナイルなポップミュージックを演奏するグループ。アルバム『TNB!』以来一年ぶりのリリースとなった『サマーゾンビー』、Youtubeで最初に聴いたときはさほどピンと来ていなかったのだけれど、この短冊シングルのトレーの網になってるところを見つめながらオーディオから「せーの!」という子供たちの声が飛び出してきた瞬間「ウワーッ」と思った。僕がリアルタイムで短冊シングルを買ってCDに合わせて歌っていた頃の記憶が全部よみがえってきた。それだけでもう僕としては十分、735円分元は取ったぞと満足しました。22歳の僕にはそんな風に響いたけれど、他の年齢の人たちにはどういう風に感じるのだろう。


♡の合図で目が覚めた
夏がくるよ やってきたよ
真剣なごっこ それは冒険
おたのしみが たくさんだね


 大江千里『夏の決心』とともに育ってきた世代的にはこのシングル、90年代のポンキッキーズで使われてても違和感ないくらい、夏休みがやってきた最初の朝の、ドキドキとワクワクが詰まっています。ポンキッキーズか。そう思うと、中川さんのボーカルが矢野顕子みたいに聴こえてきた。


この映像めちゃいいですね。
レコードに針を落とすとこから始まるのが2013年っぽい。


個人的にはワニやイグアナのイメージが強かったけど、
こっちはこっちで黒田清輝を持ってきているとは……なんて教育的態度なんだ。




 一方で、この曲のいいところはただ単純にノスタルジアを感じさせてくれるだけではないところなのかなとも思います。

たとえば街がゾンビーで
あふれ返っても大丈夫
ショッピングモールで暮らしましょう
平和な世界を夢見ましょう


 「ファスト風土化する日本」だなんて言葉があるように、均一化されのっぺりとしていく郊外の街。その元凶、悪の象徴として揶揄されるショッピングモールをここでは「大丈夫」と読み替える。そこは何でも揃っているし、休みの日には家族や友達が集まる。たまに車で出掛けたときには、そのピカピカとして大きな建物に誰もが胸を膨らませてしまうような場所。子供たちにはきっとそんな風に見えているはずだ。『たまこまーけっと』のうさぎ山商店街みたいな場所はたしかに素敵で、そういう想像力も絶対に求められているのだけれど、3分半のポップソングにはよりシンプルで原理的なものの見方が必要だとも僕は思う。そしてそれは同時に、未来に対してポジティヴな態度を示すものであってほしい。これからを生きる子供たちがこういう感覚を持っているのだとするならば、これはゆくゆく来たるスタンダードであって、問題はさておき、まずは祝福されるべきものなのだ。そういう想像力を持つことこそが真の意味で“タフ”であるということだし、それを映画だったら2時間かけて描くところをポップソングはものの数分で描いてしまうなんてことが時たま起こるから音楽は今でも聴かれ続けるんじゃないかな。


君がいることがもう事件さ
うれしすぎて 二回も抱きしめちゃうんだよ


 なによりこの感情! 中川さんの歌声はいじらしく、バンドは喜びにあふれていて、胸がいっぱいになってしまう。しかし、「サマーゾンビー」とは何のことだろう? もしかして黄泉がえり的なことを歌った曲なのかもしれない。ザ・なつやすみバンドは「ジュブナイルなポップ」とは言ったものの、「何かが終わってしまったあと」について歌ったような、ズシリとした歌が多いのも事実だ。「たべかけのアイスは溶けておもうだけじゃたりなくなる」だとか「ハート」とか全部深読みしたくなってくるな。一見するとシンプルなのに実はホラーだったりするんじゃないかと思うとちょっと怖い。うーんでも、今回はこれぐらいにしておこう。一夏かけて、繰り返し繰り返し「サマーゾンビー」へと想いを馳せてみたい。






 余談〜8cmCDについて調べてみたときに得た豆知識。世界初の8cm(欧米では3inch)シングルはフランク・ザッパのPeaches En Regalia。なるほど、流石フランク・ザッパ。あーでも、ジャケットはレコードの7inchシングルの延長というか、短冊型のパッケージはやっぱり日本独特のものなのかねえ。欧米ではほとんど普及せず、プロモ盤やオマケのCD(そういえば、今年の4月に出たフレーミング・リップスの『The Terror』のDisc 2が8cmCDだった)として稀に生産されるぐらい。








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告知です。

『流動化する都市大衆音楽/そのゆるやかな衰退と隆盛にまつわる三つの中間報告』
2013.08.03(SAT) at 下北沢mona records
【出演】 失敗しない生き方 / ふるえるゆびさき / Love and the Krafts
【司会】 マーライオン
【時間】 open 18:30 / start 19:00
【料金】 adv/door 共に¥2,000(+1D)

インディ爆心地、下北沢のモナレコードでこのような催しをやります!

2月にリリースしたEP『遊星都市』が反響を呼んでいるベッドタウンポップバンド失敗しない生き方と溌剌としたチェンバーサウンドで圧倒的な育ちの良さを感じさせる大学生6人組、ふるえるゆびさきと僕のバンドLove and the Kraftsのスリーマンです。さらに司会として、曽我部恵一との共同企画が話題にもなった20歳のSSW、マーライオンがイベントを盛り上げてくれます。

詳しくは序文も寄せていますので、上のリンク先に飛んでもらえればと思います。
来場特典なんかも用意していますんで是非ーーー!