2013年3月20日水曜日

『UKASUKA-G / でも、手を出すな!』














 
 かねてから、サッカージャケの音楽には名作が多いと思ってます。いま思いつく限りでは、たとえば『Sergio Mendes & The New Brasil 77』『Novos Baianos F.C.』などのブラジルもの。サッカーと音楽の国だから当然。特に後者のオス・ノーヴォス・バイアースは、いわゆるヒッピーのコミューン的な思想のもとに集まった集団なのですが、音楽活動と同じ割合でサッカー活動に打ち込んでいたそうです。あとは、イギリスのバンドだったらThe Wedding Present『George Best』とか。ドイツのSpace Kellyというシンガーは、7inchでサッカージャケのものをたくさん出してます。このアルバムもサッカーソングがたくさん入った、ギターポップの名盤です。どうして野球でもバレーボールでもなく、サッカーなのか。それはいまだにわからないけれど、サッカーと音楽の相性は良いらしい。そして、この日本においてその最前線を走るのが……桜井和寿!!!ファンタジスタって言われてぇ男!!!

 Mr.Childrenの桜井さんはもうずいぶん長いことサッカー好きを公言している。ライブDVDの特典映像見るとずっとサッカーしてる。ただ他のメンバーはおそらく野球派なんですよね。元野球部の田原さん(a.k.a.昔野球で鍛えた君の彼氏)筆頭に。だからかミスチルではそこまでサッカー的な表象をジャケなりなんなりで打ち出すことはなかったと思うんですが、イベントで共演し、同じくサッカー好きであったことから意気投合したというGAKU-MCの登場でついに…!今回取り上げたUKASUKA-Gは、GAKU-MCと桜井和寿によるユニットです。反対から読むと、G-AKU SAKU。くだらねえ!

 GAKU-MCと桜井和寿は2006年にも「手を出すな!」というシングルを出していて、コラボレーションは今回で二回目。前回はワールドカップのドイツ大会、今回は来年のブラジル大会を意識したもので、「手を出すな!」のアップデート版を作ろう!という企画ですね。というわけで、「でも、手を出すな!」……基本的には前作をベースに、リリックなり構成なりサウンドなりが大きく変更されています。大歓声のSEとショーの開始を告げる風のアナウンスから始まるイントロ、これがまたチープでなんとも言い難いです。チープというか、絶対に古いんですよ。そこから続くフックのミクスチャーロック風のギターサウンドとか。ひと昔前感がすごいし、なんというか、前作のよかったところだけピンポイントで抽出して無くしました!という感じがする。やっぱり、前作のサンバっていうのはすごいわかりやすかった。ブラジル音楽だから、ベタではあるけどイメージしやすいですよね。ホイッスルやらブラスなんかも賑やかで楽しい。あと「オッオッオー〜」というフレーズは、"競技場でサポーターが一丸となってシンガロングする歌"みたいなイメージだと思うのですが、今回のニューバージョンにも登場しているものの、コードがマイナーキーのちょっと洒落た進行に改められている。そんなセンチメンタルで音楽的に凝ったモンで、みんなでヨッシャーな気持ちで合唱できるか?無理でしょ。シンガロングするのであれば、シンプルにしないと。それとも桜井和寿という男の孤独な叫びなのか。そういえばGAKU-MCの新しいリリックも「あいつも終わった / そう言ってくれたっていいんだぜ / ブーイングや批判のおかげでここまで来たんだぜ」と個人的な内容だ。"ひと昔前っぽくて叙情的で個人的"というと、ロキノン系のダメなロックバンドの曲みたい。なぜわざわざこんなものを作ったのか……???

 もちろん同じようなものを作ってもしょうがないものの、ある程度完成されていた「手を出すな!」に手を出す必要はなかったんじゃないかと思います。似たような路線でも新しい曲を作ってくれた方がまだいい。まったくプロモーションなしで突如リリース、しかも配信限定と、普段ミスチルのCDを買っているような、本当に一般的なリスナー層に触れてもらえる機会があるのかどうかわからん作品ですが、そもそもそこまで売るつもりもないのだろうと思う。



『桜井和寿とGAKU-MCが「UKASUKA-G」結成、第1弾楽曲配信&5月に新イベントも | CINRA.NEThttp://www.cinra.net/news/2013/03/20/000000.php


こちらが前作。もう七年も前なんですね…

2013年3月11日月曜日

『昆虫キッズ / みなしごep』



 3月1日の雨降る夜、ココナッツディスク吉祥寺店で行われたスカートのインストアライブに行ったとき、そのスカートのニューアルバム『ひみつ』と一緒に買った。どちらも店舗限定の先行発売でしたね。この日のライブはお店の規模的に弾き語りだったのだけれど、とてもいいライブで、端的に言って勇気をもらった。途中、スピッツの「ジュテーム?」(『ハヤブサ』収録)のカバーが飛び出す場面もあり、しかもこれが本当にハマッていたので、感激しました。演奏が終わり、ともに店に訪れていた友人たちと近況などしゃべりながら家へと帰って、『ひみつ』と『みなしごep』をそれぞれ再生したとき、また勇気をもらった。

 昨年9月のアルバム『こおったゆめをとかすように』からスタジオ一発録りCD-R盤『BOOTLEG 1226』、そして『みなしごep』とリリースが続いていますね。『BOOTLEG 1226』に収録されていた「新曲B」がだいぶよかったんですけど、今回は収録されずじまいでした。今作はアルバムから漏れた"みなしご"たちを集めたものみたいです。ちなみに「新曲B」は打ち込みのドラムを導入した曲で、そういう曲はすでにアルバムにも入っているけれど、現時点では依然それがバンドの最新のモードなんだろう。

 ところで「あずきくん」を聴いてスピッツっぽさをめちゃくちゃ感じた。カントリー風のリズムにアコギのストロークとぼんやりしたギター、リヴァービーな歌、涼しげなマイナーセブンスコード……『三日月ロック』の頃までのスピッツにはこういう曲があったような気がしますね。歌詞にもモロ出てくる「水色の街」とか。前述のスカートもそうだったけれど、ここ最近のアクトの音楽を聴いていて、なんとなくスピッツとの接点を感じる瞬間が少し前よりも増えてきたような気がする。僕はスピッツは、三本指に入るくらい好きなバンドなので、とても嬉しい。スピッツは「ロビンソン」以降、常に売れ続けているバンドではあるけど、僕らくらいの世代だと中学くらいに「スターゲイザー」のヒット(あいのりの主題歌だったから!)があって、あの辺りが一個大きな入口になってる印象がある。だからその前後のアルバム『色色衣』『三日月ロック』『ハヤブサ』あたりを愛聴していた人たちがいま20代なかばにさしかかってるっていうことなのかなー。

 「胸が焼けるような / 朝焼け浴びて / 冷たい部屋に帰っていく」「花火ばっかに飽きた / アイツとっておきの街へ / ゲームは続くよチャイナタウン / 震えるママの手には」とにかくセンチメンタルですね。センチメンタルさを鮮やかな風景に仮託していたり、ちょっと自閉的な方向に向いていたり、次の街へ移動していたり、まああと細かい言い回し含めて、スピッツだな……と思う。個人的な話、こういう風に曲を作っていけばいいんだな、という気付きもあったから勇気を貰った。スピッツは僕にとっても巨大なルーツのひとつですから。センチメンタルからは逃れられないですよ。この前、紙ele-kingの2012年ベスト号を読んでいて、"日本のバンドはセンチメンタルすぎる"と書いてあって、たしかに、と思ったけどカラッとしたものをやれる気しないからな!僕もヌルッといこうと思った。



2013年3月4日月曜日

『TUCKER&エマーソン北村 / SPECIAL PRESETS』

















 エレクトーン奏者であり、リズムボックスやターンテーブル、ギターやベースの即興演奏パフォーマンスなどを行うTUCKERと、じゃがたらに始まり、EGO-WRAPPIN'やキセルや斉藤和義などのサポートなど数多くの場で活躍するキーボーディスト、エマーソン北村によるスプリット7inch。カクバリズムよりリリース。TUCKERさんは、去年のカクバリズム10周年イベントの際に東京公演でゲスト出演していて、そのとき僕は初めてライブを観ました。あれはすごいライブだった。シーケンスにあわせてリアルタイムでいくつもの楽器をループさせ、そのうえでオルガンを叩き鳴らす。パンクとソウルがぶつかりあったような、エネルギーのかたまりのようなパフォーマンスだった。鍵盤奏者は、あれくらい派手な人が好きだな〜口から火も吹いてたし。先日、月刊ウォンブ!でMC.sirafuさんと共にイルリメさんのサポートで演奏しているのを見たときは、寡黙(というより、あとの二人がよく喋る人たちだからか)かつ、とても柔和な雰囲気だったのが逆に印象的だった。

 エマーソン北村さんも、リズムボックスと古いキーボード機材を使ったソロパフォーマンスをずっと続けている(実際に観たことはまだない)。つまりは、似たようなスタイルの二人がタッグを組んだepだということだ。内容的には、A面B面ともにエキゾチックでメロウでちょっとスペーシーな、インストゥルメンタル。ただそんなに猥雑な感じはなくむしろかわいらしいコンパクトな音で、さわやか〜に聴ける。風が吹く夏の夕暮れ、晩ご飯を食べたあとの小休止……なんてときにはもってこい!なステディな一枚ですね。やっと冬が終わろうとしているばかりではありますが。ライブで見たようなエネルギッシュな音が聴けるのかな?と思っていたので、それに関しては少し残念。それはまたライブを観に行って、実際に体感するのがいいでしょう。

 必ずしもマスト、というわけではないなと思ったけれど、Shuggie Otisや『Personal Space』に最近グッときている自分としては、やはり好きです。というか、リズムボックスっていいよね……スクエアでチープな音に、無性に心惹かれてしまう。このアナログ、あちこちのお店ですでに品切れになってしまっているようですが、JETSETのツイッターアカウントは「また再入荷する」とアナウンスしていました。