2017年12月31日日曜日

2017年のマンガ

なんといっても今年は『けものフレンズ』が大きかった。我々はどこから来たのか、我々は何者か、我々はどこへ行くのか。いまだに自分はこの問題こそがあらゆる行為の原動力になっている。群れを求めて旅を続ける姿は人生そのものなのだが、答えにたどり着くこと以上に同じ目線で歩く仲間がいることそれ自体が尊いのだとつくづく思う。種族を超えたトライブ・コールド・クエストである。『20センチュリー・ウーマン』の存在も大きい。違う世界、違う世代から来た我々は一緒に踊ることができるだろう。不格好だとしても我々には連帯を試みてきた歴史がある。困難は群れで分け合え。書影クリックでアマゾンに飛びます。


1. 板垣巴留『BEASTARS』



動物の擬人化は多様性や共存のメタファーとしてあまりに雄弁すぎるものだが、「ズートピア」の正しさに息苦しさを感じた人は読んで得るものが絶対にあるはず。建前だけではない混沌とした世界を若者たちの青春群像劇として描き出してしまうこの手腕はいったいなんなのか。疑問を抱きながら自分の意志で未来を選び取ろうとする姿に胸を打たれる。

2. 西村ツチカ『北極百貨店のコンシェルジュさん』



その『BEASTARS』に触発された部分が大きいという本作は、これまでも西村ツチカ先生の作品をずっと読んできたけれど、あらゆるお客様を暖かく迎え入れる最高傑作ではないかと思っている。心にじんわり染み込む物語とキャラクターの表情が魅力的で、それは言葉にすればシンプルだけれど、この奥深さと説得力には唸るほかなし。

3. 永椎晃平『星野、目をつぶって。』



諦めの時代だからこそ人は変わっていくことができるかを問う青春の物語が必要なのだと思う。容姿とスクールカーストの問題を描いた物語として『圏外プリンセス』という作品があったが、本作は主人公が魔法を与える側であるところに捻りがある。そしてこのロマンチックなタイトルの意味を反転させる第6巻の展開が実に見事だった。

4. 吟鳥子『君を死なせないための物語』



2014年のベスト『アンの世界地図』(今年ようやく徳島に行けました!)に続く新作。舞台設定は現代日本から遠い未来の宇宙へと大きく移るも、いま描かれるべき問題がズバリと描かれている。合理性至上の世界ではかない命が生きる意味とはなにか。虚無を超えるために必要なものはなにか。等身大の恋愛ではなく壮大なロマンを描いていたかつての少女マンガを愛する人は必読。

5. 施川ユウキ『銀河の死なない子供たちへ』



永遠を生きる子供たちをめぐる果てしない旅の物語。『火の鳥』へのトリビュートでもあるのだろう。円周率や黄金比らせん、生と死、時間。世界の理(ことわり)を撫でているかのようなゾワゾワ感。『オンノジ』や『ヨルとネル』と通底する部分もあるが、本作のスケールの大きさはひとつ抜きん出たものがある。

6. 横田卓馬『シューダン!』



サッカーマンガだけれど社会性に関する話でもある。なので「集団」というタイトルが秀逸。もちろん少年マンガとしての熱さや甘酸っぱさもある。この作家は普通の子が自分の頑張ってることで活躍を見せる一瞬の輝きを描くのが本当にうまい。『ゆらぎ荘』がフェミニストから反発を喰ったジャンプだが、これと『鬼滅の刃』と『Dr. Stone』も載ってるところに時代を感じる。

7. 鳥飼茜『先生の白い嘘』



鳥飼茜イヤーとなった本年、同じく完結した『地獄のガールフレンド』の方を挙げようか迷ったものの、パワーあるエンディングだったこちらを。「男 vs. 女じゃなくて誠実な人 vs. そうじゃない人とか、もっと複雑」(三田格さん)というのはそうとして、最後の最後まで受け止めあぐねていたのだけれど、主体性を取り戻せという話でよかったです。

8. 能條純一/半藤一利/永福一成『昭和天皇物語』



たったひとつの人生を生きることの峻厳さ。平成終了を目前に昭和史への関心の高まりを感じる(『疾風の勇人』連載終了は残念でした)が、第1巻で主に描かれるのは明治末期、若きヒロヒトに帝王学を学ばせようとする学習院と御学問所を舞台としたドラマであり、日本の近代ひいては神代からの成り立ちを意識せざるを得なくなる。どれだけ大きな話になるのだろうか。

9. 近藤聡乃『A子さんの恋人』



いまさらかもしれないけれど、この最新刊がとてもよかった。友達の友達の女の子が「A太郎はしつこくて嫌」的なことを言っていたらしいのだが、でも、I子ちゃんにしろ、超然としているように見えるA子ちゃんにしろ、その割り切れなさが人生じゃん? と20代を敗走したかつての若者としては思っている。

10. 植芝理一『大蜘蛛ちゃんフラッシュ・バック』


なにはともあれ植芝理一の新作である。「母が怖い」と話題の『血の轍』に比べて、ただただお母さんがかわいいだけの本作のいとおしさよ。何度も言っているけれどアニメ化した暁にはスピッツの「タイムトラベラー」をエレクトロ風にカバーした、大蜘蛛ちゃん役の声優(新人)が歌ってるやつがエンディング曲になってほしい。


そのほか、注目作品としてサワミソノ『丁寧に恋して』(日本と台湾の絶妙な地理的&心理的距離感がよくよく描かれてる)、山川直輝/朝基まさし『マイホームヒーロー』(非常に面白いサスペンスですが、この作品は「親の心子知らず」に尽きる)、つくしあきひと『メイドインアビス』(アニメも素晴らしかったがこの原作は本当にすごい)、岡田麿里/絵本奈央『荒ぶる季節の乙女どもよ。』(「思春期と性」という永遠のテーマですが、女子たちが主人公で。そしてこれも別冊だけど少年マガジンなんですよね)、江野スミ『亜獣譚』(前作『たびしカワラん!!』も読んだ。センス溢れる才能)、ヤマシタトモコ『違国日記』(あまりちゃんとしてない大人としてはやはり…)、たいぼく『島とビールと女をめぐる断片』(同人誌。青春の2ページ目の扉が開くロードムービー!)などがありました。

2017年12月30日土曜日

2017年の音楽

【BEST NEW ALBUM】


1. CHAI『PINK』[Listen]
2. Pierre Kwenders『MAKANDA At The End Of Space, The Beginning Of Time』[Listen]
3. Rafael Martini Sextet Venezuela Symphonic Orchestra『Suíte Onírica』[Listen]
4. Sam Gendel『4444』[Listen]
5. JAZZ DOMMUNISTERS『Cupid & Bataille, Dirty Microphone』[Listen]
6. Rodrigo Campos, Juçara Marçal e Gui Amabis『Sambas do Absurdo』[Listen]
7. 伊集院幸希『NEW VINTAGE SOUL 〜終わりのない詩の旅路〜』[Listen]
8. Ronald Bruner Jr.『Triumph』[Listen]
9. CASIOトルコ温泉『ゆ』[Listen]
10. 柴田聡子『愛の休日』[Listen]
11. potato-tan『Tobu Tobu Girl OST』[Listen]
12. Ben Varian『Quiet FIll』[Listen]
13. The Magnetic Fields『50 Song Memoir』[Listen]
14. Capitol Swizzle Credit『Swizzle 4: Crust Judgement』[Listen]
15. 公衆道徳 공중도덕 Gongjoong Doduk『公衆道徳 공중도덕 Gongjoong Doduk』[Listen]
16. Chiquita aka. Isis Giraldo『CHIQUITA MAGIC』[Listen]
17. feather shuttles forever『feather shuttles forever』[Listen]
18. Fleet Foxes『Clack-Up』[Listen]
19. King Krule『The OOZ』[Listen]
20. Boys Age『New World Pregnancy』[Listen]

かつての自分は自分がカルチャーを謳歌することに重きを置いていて、それはいまもそうなのですが、しかし自分じゃない誰かがカルチャーを謳歌している様子を眺めることにも大きな喜びを感じている。周りには音楽を愛する人がたくさんいるので、彼らが熱く語り合ったり、リズムに合わせてステップを踏んでいるのを見ているだけでも僕は嬉しいなと感じた1年でした。順位に正直あまり意味はないです。[1] いちばん繰り返し聴いたので。コアなリスナーからなめられてる気がするのだけど、めちゃくちゃいいじゃないですか?行き届いたプロデュース、チアフルな歌詞、ダイアナ・ロス系の歌声が魅力です。 [2] アフロポップなのだけど、アフロアフロしていない、不思議な混淆音楽。[3] 音博でのアレシャンドリ・アンドレスとの共演、やばかったです。[4] 黒いスフィアン・スティーヴンスだと思っている(白人だが)。[5] 全然ヒップホップじゃないところが好きなのかなと。大谷能生とアンディ・パートリッジの顔が激似であることに気付いた一年でもある。[6] ブラジルの人ですね(よくわかってない)。エクスペリメンタルな音響世界![7] アヴァランチーズ『ワイルドフラワー』に筒美京平のサンプリングでアンサーする心意気に惹かれる。[8] サンダーキャットの兄。コールドプレイみたいなスピリチュアルジャズだと思った。『ドランク』よりこちらを推したい。[9] 四国と関西まで友達に会いに行ったのだが、その友達たちが話題にしていて知った。大阪・大正のファミマでも流れてた。[10] 鳥飼茜先生とのトークイベントよかったです。[11] この2017年にゲームボーイ専用として発表されたゲームソフトのオリジナルサウンドトラック。『ディギン・イン・ザ・カーツ』もよかったんですけど、僕が好きなサントラ音楽(ゲームに限らず)はこのラインだなと。[12] 中華風のマック・デマルコ。[13] 5年ぶり5枚組50曲。サム・ゲンデルもそうだけど、岡村詩野さんか僕しか聴いてる人がいない気がする。[14] 強烈なマスロックですが、この人の音楽は全部フランク・ザッパ以上の悪意を感じるので大好き。[15] アシッド・フォークの天才を定期的に輩出する韓国の宅録音楽。Lamp のレーベルより。[16] 先日、もろほしさんと数年ぶりに再会した際、「ジャズザニューチャプターとはなんだったのか?」みたいな話になったのですが、イシス・ヒラルドはよかったなと思いました。[17] 中学ではバドミントン部でした。[18] ダーティ・プロジェクターズやグリズリー・ベアもよかったのですが、オーセンティックな音楽性ながらサウンドの質感に気合いを感じる。[19]「ドンキー・コングのラスボスが名前の由来だ!」と絶叫してたんですが違うらしいです。『ソードフィッシュトロンボーン』とかのトム・ウェイツを思い出しました。[20] 未来版ブラック・ジャックと名高い傑作コミック『AIの遺電子』へのトリビュート!



そのほか、言及しておきたいリリースとしてミツメ『エスパー』(ひさびさにいい曲。スピッツの引力を改めて感じる)、くるり『How Can I Do?』(ミドルテンポのグルーヴィなチェンバーポップは最高ですあおい (井口裕香) & ひなた (阿澄佳奈)『おもいでクリエイターズ』(うたたね歌菜氏、Tom-H@ck氏に引けを取らない才能では)、どうぶつビスケッツ×PPP『フレ!フレ!ベストフレンズ』(年末進行の本当に厳しいときに頭の中で流れていた音楽)、伊藤尚毅『デモテープ』(漫画雑誌『架空』の付録。伊藤君の今後に期待)、石若駿『SONGBOOK II』(若手ナンバーワンドラマーのポップソング集。ちゃんと話題になってるのか?)があります。年間ワーストは『流動体』『フクロウ』です。ありがとうございました。

2017年3月7日火曜日

菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラール Tour 2017 “凝視と愛撫の旅団 brigada mirada y caricia” 3.6 mon. 2nd SHOW

菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラールを観に行きました。小鉄さんのブログに触発され、観に行きたいと思ったからです。

『戦前と戦後』はその年の私的ベストに選ぶくらい好きな作品だったけれど、そんなに熱心なファンではないですね。いや、著書も何冊か読んでるからわりとファンなのかな。他のプロジェクト含めてライブを観に行くのは初めて。ただトークイベントは一度行ったことある。『戦前と戦後』の購入者特典で当選してチケットもらった。懸賞好きなんだよね。ただ、曲名をちゃんと把握してる楽曲は少ない。「京マチ子の夜」を学生の頃、音楽文化論の授業の終わりの方に、先生が「ミュージックビデオがエッチなので、堂々と流すのはまずいですから、電気を消します」と言って、女がバックから挿入されてる映像にあわせて、暗い教室で聴いた記憶がある。名前しか知らなかった菊地さんの音楽を聴いたのはあのときが初めてだと思う。

今回はブルーノート東京ということで、僕、職場が神保町なので、残業はそこそこに切り上げて、表参道まで半蔵門線で一本。前にマーク・ジュリアナを観にビルボードに行ったときも思ったけど、この手のライブハウスは最高だと思う。なんというか、僕は10代の半ばから20代の前半までインディロックのバンドマンだったのだけど、ライブハウスという空間は全然好きになれなかったですね。ホスピタリティがないし、あまりときめくものがないじゃん。いや、あれはあれでロマンがあるのはわかるけどね。でも、高級なライブハウスにしか行きたくない。僕なんか別にお金持ちじゃないですよ。しょせん高卒だし、たいしたお給金もらってません。でも、そんな人間がちょっと贅沢するだけで気取らせてもらえる場所がいま、どれだけあるかなー? ジャケット着て、革靴履いて、前髪とか上げちゃってさ。音楽、暗い照明、お酒、素敵なサービス。しがない労働者として夢を買いに来てるんだな。とはいえ、ボリュームたっぷりのフライドポテトとホームワインをデカンタでオーダーするだけでも一公演じゅうぶん楽しめるので、厳しいなーと思ってる人も、ちょっとだけ貯金して行きましょう。

「天使の恥部」と申します。

『昭和が愛したニューラテンクォーター』(DU BOOKS)という本があって、これはかつて赤坂に存在したナイトクラブ、夜の社交場、昭和のショー・ビジネスを築いたオーナーが当時の記憶を語っているものだけど、なんというか、音楽が芸能だった時代への憧憬ってあるよね。小鉄さんが先のブログでも触れていたけれど、ペペという楽団はそういう時代の空気を現代に蘇らせようとしているグループだと思う。菊地さんもラジオでオススメしていた本なので興味ある方は是非。



しかし、どいつもこいつも、綺麗な服着て、高いチャージを払って、変な名前のカクテル飲んで、ストレンジ・オーケストラが奏でるトーンクラスタとポリリズムをわざわざ聴きに来ているのだなあと思ったら痛快だった。ツアーのファイナルで二部公演の後半だったからか、予定の時間を大幅にオーバーして熱のあるセッションを堪能させてもらった。バンドにはスウィートなナンバーも多々あることは知っていたが、そっちのレパートリーはさほど披露されず、スリリングな楽曲が多かった気がする。なんにせよ曲名がわからないのですが、たぶん公式にセットリストがアップされているのでは。ブルーノートは箱が小さいので、アンプリファイドされていない生の音が聴こえてくるような規模感(実際はPAシステムがありますよ)なのが、古風なショーを思わせてイイ。もっと爆音で聴きたいなと思うタイミングもあったけれど。

着いた席が上手側だったので、ストリングセクションの様子を伺いやすい位置だった。細かく刻まれるボーイング。鋭いビブラート。迫力ありましたね。第1バイオリンのソロはインプロだったのかな(基本的にクラシック系の弦楽器は楽譜ありきの演奏なので、バイオリンなどを即興演奏できる人はどちらかといえば珍しい)。国内でこんな刺激的な四重奏が観れるのに「カルテット」観てる場合か。関係ありませんね。バンドネオン、最高。この楽器は息を吹き込んでいるようで実際はふいごで空気を送っているわけだが、息づかいをシュミレートする楽器、エロいと思う。高校生のとき『コインロッカー・ベイビーズ』を読んで初めて存在を知ったな。大儀見氏のパーカッションもよく見えました。

誤解を恐れずに言えば、こんなに情欲を焚きつけられるステージなのだから、観客はもっと騒いでもいいと思う。帰ってから肉を焼いて食べました。

2016年12月31日土曜日

2016年のマンガ

振り返ってみると、数千万部単位で売れている定番タイトルを読む機会が多かった。たとえば『キングダム』『黒執事』『進撃の巨人』『東京喰種』のような作品を積極的に読みました。漫画は面白いと改めて感じる。そうした影響もあってか今年のラインナップは去年や一昨年とは毛色が少し違うかもしれませんが、どのタイトルも素晴らしかったです。アメリカのスーパーヒーロー映画はアメリカに生きる人々の悩みを背負っている。それでは日本においてその役割を果たすものはなにか。僕は漫画だと思っています。書影クリックでアマゾン飛びます。


1. 梶本レイカ『コオリオニ』



90年代、警視庁の全国的な銃器摘発キャンペーンが打ち出され、厳しいノルマを課されるなか、北の大地では警察とヤクザが手を組み、点数稼ぎのデキレースが繰り広げられていた--。商品ジャンルとしてはボーイズラブだが、実際の汚職事件をモデルに描かれた本作は殊に異形なノワールサスペンスである。互いの肉を削ぎ合う愛と欲望。祝福されえぬ人生に生まれ落ち、なおも生きることの輝きを追い求め、破滅の運命へと堕ちていく彼らの姿は、沈黙前の岡崎京子作品をも想い起こさせる。確かな構成力で重厚な物語をコンパクトなページ数に収めることに成功したがゆえの質量感。弩級の才能と断言できる。


2. 松島直子『すみれファンファーレ』



雑誌休刊後の長い執筆期間を経て、この年の瀬にぽっと刊行された描き下ろしの完結巻。よく笑い、よく驚くすみれちゃんの毎日は、すみれちゃんを含めたみんなの思いやりのうえに成り立っていて、だからこそ愛おしく、同時にあやうくもある。デリケートな問題に向き合うことは簡単じゃない。断絶することはたやすい。そんななか、相手を信じることのできる自分を信じることができたならば。伝えるのをためらった想いを伝えることができるのならば。本作が丁寧に描いてきた物語は、足りないものばかりを数えてしまうナイーヴな私たちに「心配するなよ、気楽にいこうぜ」とエールを送っている。


3. どろり『あの子と遊んじゃいけません』



オモコロでの連載時には毎度その内容に驚嘆しつつ、単行本化はありえないだろうと諦めていたらまさかの小学館からの刊行。我々が囚われている価値観をご破算にしたうえで、さらにあらぬ方向へと帰着させてしまうがゆえに、傍観する我々はどこまでも寄る辺を失い不安を覚えるのだろう。いがらしみきおがパンクだとしたらこちらはオルタナではないか。この時代のナンセンスであるけつのあなカラーボーイが歴史に残らない可能性があるぶん本作が世に出た意義は大きい。ギャグであることは確かだが、帯文を寄せている岸本佐知子が編纂した短編集『居心地の悪い部屋』で読んだ不条理なホラーに近い(ので、推薦人として適切な人選だと思う)。


4. 新田章『恋のツキ』



「でも本当は私、すっごい憧れる…。とびっきり好きな人とずっとずーっと愛し愛されて暮らす、レアな世界…」。アラサーの切実なラスト・フォー・ライフ。適齢期なりの適した生き方が正解なのは百も承知。だけど正論では割り切れないからこそ生きることはせつない。貧しさゆえの飢餓感をクールに受け流す『あそびあい』も切実な作品だったが、もう若くもないけれど枯れたくもない難しいお年頃の人が読むならコチラを。『A子さんの恋人』ファンも読みましょう。本作を読んで「クズだなー」としか感じない人はきっと幸福な人なので、今ある生活をどうぞ大切に。


5. 咲坂伊緒『思い、思われ、ふり、ふられ』



『ストロボエッジ』『アオハライド』の人気作家が送る高性能な王道少女漫画。今年のヒット作では『椿町ロンリープラネット』よりこっちの方が好き。正反対の価値観を持つヒロインふたりがお互いを理解し、尊重しあう姿が美しい。異なる立場の現実を描き、相互理解を促すことも少女漫画のひとつの力である。主要な登場人物が親同士の再婚により姉弟としてひとつ屋根の下で暮らす設定に『ママレード・ボーイ』が頭をよぎるも、あの能天気なラブコメに比べて彼女たちが展開する人間関係は複雑で、この20年間のうちに読者も社会も一筋縄ではいかなくなったことを感じる。


6. 米代恭『あげくの果てのカノン』





エイリアンとの戦闘で負傷し修復されるたびに性格が変わる。不思議な先輩の存在が愛情の無常を加速させることで見えてくるものは、ほんの少しのテイストの違いが我慢ならない時代にも、ひとつのことを考え続けるのも難しい時代にも、誰もが変わらぬものを探し続けては傷ついているという真実かもしれない。主人公・かのんの信仰にも似た恋心をどう捉えるべきか。人は変わってしまうからこそ前に進めるのだと思いつつ、成長を拒むことにもそれなりの美しさがある。ちなみに本作の担当編集者は『プリンセスメゾン』の担当でもある。

7. つばな『第七女子会彷徨』



『この世界の片隅に』で描かれていたように、人はありえたかもしれない別の運命に想いを馳せ、悔やみ、いつか納得をする。平行世界の可能性をすこし不思議なフィクションとして探し続けた本作も7年間77話の彷徨を経て、かけがえのない結論に行き着いた。過去の数々の寓話がひとつの大きな寓話として収斂していく最終巻にあたって既刊を読み返したところ、これまでの藤子F的アイデアに感心させられる一方で、バッドトリップをイメージ豊かに表現する筆致に圧倒された。『日常』が終わって『それ町』が終わって『七女』が終わってしまったので、同じ系統で面白い作品があれば教えてください。


8. 三好銀『私の好きな週末』



今年の夏の終わりに急逝した作者の、普段通り穏やかな最終作。三好銀が描く静かな生活ではいつも「何か」が起きている。些細だけれど一度目を留めて気づいてしまえば不可解で仕方のない日常のほころび。そのほころびに意味を見出そうとするまなざし、心のゆらめきこそが三好作品の魅力だろう。微妙な緊張感は画面にもあらわれ、いびつなパースは我々の現実とよく似た異なる世界を思わせる。確かな描かれる物語は読者の日常生活を読み替えるよすがであり、この世界を凛とした感性で眺め直す方法を教えてくれる。


9. 鍵空とみやき『ハッピーシュガーライフ』



「真実の愛」を求めた少女が幼女を監禁するサスペンス。脇を固めるキャラクター含めて倒錯した人物ばかりが登場するのだが「ある出来事に対して普通だったらこういう反応するだろう」というところを翻して物語を広げるのが上手い。本作と『やがて君になる』の担当編集者同士による百合対談で『桜Trick』のタチ作品における恋愛感情がもたらす飛躍について言及していたのは腑に落ちる。愛がもたらす甘い感情と苦い感情の両面を振り幅大きくキャッチーに描いた良質なエンターテイメント。


10. Rootport / 三ツ矢彰『女騎士、経理になる』



経理士となった女騎士の冒険(?)を通してお金の数え方を学び、終末へと向かう世界を救わんとする物語である。ネタ一発かと思いきや簿記知識の解説は本格的。文字数が膨らんでいるため、漫画としては好みが分かれるだろうが、『ダンジョン飯』以降のRPG的世界観+アルファな作品群では最も気を吐いているのではないか。「わたしたちが欲深いからこそ世界は豊かになる」というメッセージにも心を打たれる。この作品に出会って「くっ殺」なるミームの存在を知ることもできた。おまけのコラムも勉強になります。


その他、期待の10タイトル。

堀尾省太『ゴールデンゴールド』/中川ホメオパシー『干支天使チアラット』/衿沢世衣子『うちのクラスの女子がヤバい』/かわかみじゅんこ『中学聖日記』/安達哲『総天然色バカ姉弟』/真造圭伍『トーキョーエイリアンブラザーズ』/いましろたかし『新釣れんボーイ』/石田敦子『野球+プラス!』/石川雅之『惑わない星』/おざわゆき『傘寿まり子』/赤坂アカ『かぐや様は告らせたい

2016年12月30日金曜日

2016年の音楽

【BEST NEW MUSIC】



1. The Avalanches『Wildflower』[Listen]
2. Yumbo『鬼火』[Listen]
3. The Caretaker『Everywhere at the end of time』[Listen]
4. Elevator Grips『Elevator Grips』[Listen]
5. David Bowie『★』[Listen]
6. KOHH『働かずに食う(Single) [Listen]
7. Mr Amish『The Absurdist』[Listen]
8. Bon Iver『22, A Million』[Listen]
9. Eddy Detroit『Black Crow Gazebo』[Listen]
10. Jon Bap『What Now?』[Listen]

枚数を絞ってみました。どうでしょう。[1] 今年はアヴァランチーズの新作に生きるのを助けてもらいました。『ワイルドフラワー』には僕の好きな要素が全て詰まっています。すなわちグルーヴとサイケデリア。サイケな感じがまたちょっとずつきてるのは嬉しかった。レモン・ツイッグス、マイルド・ハイ・クラブ、ドラッグディーラーなど…。68年、73年前後っぽい音楽が好きなのは一生変わらないと思う。[2]「悪魔の歌」にも生きるのを助けてもらいました。[3] 激甘。最初から死んでる音楽。睡眠不足で会社に向かう朝、バスで眠りながら聴きました。[4] デス・グリップスのアカペラに自動伴奏生成ソフトでバックトラックを加えただけ。最も笑った音楽です。本当はこれが1位。[5] "NOと言いながらYESを意味する。これがいままで私が伝えたかったすべてだ" !!  [6] KOHHは詞が聞き取りやすい。[7] エクスペリメンタルなオルタナティヴロック。今年発表のもう1枚もアンビエントブルースというか、時代と全然関係ないところがよかったですね。[8] CDがぶっこわれたのかと思いました。[9] サン・シティ・ガールズ周辺のサイケ怪人が送る新作。A面は奇天烈なカントリー、B面はドローン1曲という構成も完璧。[10] ディラ以降のハーフ・ジャパニーズみたいな前作に出会って衝撃を受けたのも今年。これは1曲目が10分超えのドローンで、リスナーに対する悪意がある感じが好きです。

四半期ごとにリアルタイムでチョイスしたベストアルバムの記録もあります。より網羅的です。以下リンクより。

1〜3月
4〜6月
7〜9月 /(シングル編)
10〜12月



【BEST REISSUES & RETROSPECTIVES】



1. Syrinx『Tumblers From the Vault』(RNVG
2. Betty Davis『The Columbia Years 1968-1969』(Light In The Attic
3. Prix『Historix』(HoZac Records
4. Various Artists『Afterschool Special: The 123s of Kid Soul』(Numero Group
5. ダン・ペン『ノーバディーズ・フール』(ソニー
6. The Flaming Lips『Heady Nuggs 20 Years After Clouds Taste Metallic 1994-1997』(Warner Bros
7. Hareton Salvanini『S.P. 73』(MR.BONGO
8. Staffan Harde『Staffan Harde』(Corbett vs. Dempsey
9. EL' BLASZCZYK ROCK BAND HIMSELF『THE QUIRKY LOST TAPES 1993-1995』(Born Bad Records
10. Cornelius『Fantasma』(Lefse Records

[1] 室内楽と電子音楽とサイケが渾然一体。謎のバンドの全貌が明らかに。[2] マイルス・デイヴィスの元奥さんですね。『ビッチーズ・ブリュー』の影に隠れた秘蔵のセッションだけありすごい。[3] ティーンエイジ・ファンクラブの『Grand Prix』と Prix は関係があるのだろうか。パワーポップ・ファンは買いましょう(必ず)。[4] この世界のあらゆるジャクソンズたち。<Numero Group> のキッズソウル・シリーズ第2弾。[5] 20年前の Nice Price シリーズを踏襲した帯デザインを含めて。[6] 昨年末発売。ディスク1は言わずもがなの名盤。ライブ音源が異様なテンションです。[7] アルトゥール・ヴェロカイと比較されるブラジルのコンポーザー。<MR.BONGO> では魅力的な再発がたくさんありました。[8] 70年代に発表されたジャズギタリストの独演。曲名と演奏が異様にアブストラクトで怖い。[9] テープレコーダーを用いてひとり多重録音していたフランス人。現代音楽の教養がある人らしいですが、なぜかローファイなロック。[10] 渋谷系の金字塔がアメリカでアナログ再発。オリジナルのジャケットデザインでのリイシューを歓迎します。

2016年12月18日日曜日

相談

【相談1】

人生に「女の子が集まる、オタクが集まる、一人で佇む」の3パターンがあるとしたら、私の人生は「オタクが集まる」だと思う。私のツイッターのフォロワーの殆どは、屈託があり、カルチャーにかぶれた、若く、社会的地位の低そうな男性である。1行前後のツイートが多く、ヒントは少ないが、彼らの言葉はどこか怒りと寂しさを帯びている。この現状から私が何かしらの「得(とく)」をすることはない。彼らは「ただそこにいる」だけだからだ。しかし人はフォロワーを選ぶことはできない。


数年前、早稲田の文学部に通っていた私は英文科に入ることを決めた。チュートリアルで主任が英文科の講師陣をひとりひとり紹介した際に、気鋭の翻訳家としても知られるT先生について「エッジーなカルチャーに関心のある男子生徒に慕われる」というような形容をしていた。それから半年か一年経ち、T先生の演習を受けて、あのとき言わんとしていたことがなんとなくわかった。 日本では知られていない現行の海外文学を紹介する、シニカルな語り口のT先生が私はすぐに好きになった。


今年の夏頃、友人(男性、大学院生)と、その友人の友人(男性、大学院生)、私の3人で、新宿西口の焼き鳥屋で酒席を設けたとき、私は非常に下卑た品の無いジョークを繰り広げ、場を大いに賑わせていた。そんな中で、友人の友人(知り合ってから会うのは2度目だった)に「男子校出身でしょ」と言われたことが心に残っている。実際には共学校の出身である。


私は、ビール会社の営業職に求められるラガーマン的なマチズモとは一線を画す一方で、あまりにホモソーシャルに傾倒していると思う。アッパークラスならまだしもアンダークラスの中におけるそれはあらゆる立場の両翼から見ても非営利的な集団であると感じる。どうして自分が負け戦の中に身を投じているのかがわからない。どうしてですか?


【相談2】
毎年恒例、年間ベスト記事を今年も更新するか迷っています。

2016年10月26日水曜日

THIS RECORD SHOULD BE PLAYED LOUD

中原昌也の『軽率の曖昧な軽さ』に「背後で、西部劇で見るような大乱闘を喚起させずにはおかない、けたたましいバンジョーの早弾きがせき立てる。激しいカントリー音楽が生演奏ではあり得ないほどの大音量でスピーカーから流れている」というシーンがある。このような言い方は陳腐だが、さすがノイズミュージシャンというか、音楽における「異化」とはこういうことだよな、と思う。これはきっと本当に怖い。米軍が捕虜に対してメタリカやレイジアゲインストザマシーンの音楽を大音量で聴かせる拷問をよくやったりしているが、爆音で再生されることに最適化されたラウドミュージックではなく、ニック・ドレイクみたいなフォークミュージックを生演奏では絶対にありえない音量で聴かされる方がキツいのでは? と想像したりする。いまいちイメージができないが。あと、ウーハーを積んだヤンキーの車とか、または、重低音の響く大箱、もしくは109とか、ああいう空間でたとえばロバート・ワイアットをかけたらどんな感じがするんだろうか? トライしたことのある人間はいるのだろうか? 普段と趣向の異なる音楽をかけるというただそれだけのことだが、案外誰も試したことがないかもしれない。