2013年6月27日木曜日

『くるり - ロックンロール・ハネムーン』














 2011年に加入したギタリスト、吉田省念が脱退し、三人体制となったくるりの最初のシングル。iTunes Store限定で配信がスタートしたので、さっそく購入しました。くるりというバンドにおいてドラマーはハードルが高いポスト(そのあたりのことは今日ちょっとだけツイッターの方に書きました)なのでともかく、ギタリストはキャラクターが大事なのかなと思っていたので、四人体制は安定して続くんじゃないかと思っていたけれど、アルバム一枚だけで終わっちゃいましたね。


 ここ数年のくるりは、レフトフィールドのロックバンドという立ち位置から、大衆歌謡へと役割をシフトさせながら(NHKドラマの主題歌を担当するなんて『図鑑』の頃に誰が想像しただろう)、中堅として上の世代、同世代、下の世代それぞれとともに穏やかな交流を謳歌しているように見えます。まあ言ってしまえば歳をとったということですよ。さすがに、岸田繁を含めたメンバー全員がわいわいツイッターをする未来が来るとは思わなかった。そんなくるりのことを、『図鑑』や『THE WORLD IS MINE』の頃までの作品しか聴いていないリスナーは「変わってしまったな」とか思うのかもしれない。それはある意味では正しいのかもしれないが……僕はそういう言い方をする奴は認めません!僕にとってくるりは、リアルタイムで聴き始めたのは中3の秋に出た『NIKKI』からだけれど、いちばん影響を受けてきた存在だから、もうロキノンジャパンみたいな言い方するけど、共に成長してきたと思ってますから(笑)! というより、成長させられてきたわけですよ。それは僕も少しは歳をとったということでもあるのだけれど。アルバムが出るたびに「うわ、なんだこれ、もうダメかもしれない」と思うんだけど、しばらく聴きこむにつれて「…いや、なるほど、そういうことか…」と納得させられてきたのです。自分語りはほどほどにして、何が言いたいかというと、基本スタンスとして今のくるりも僕は好きだということです。


 で、『ロックンロール・ハネムーン』……トランペットのアラビアンな上昇フレーズとウィンドチャイムが魅惑的で、まずはグッと引き込まれる。この雰囲気、70年代末の音楽だ。ロックンロールはパンクに、ソウルミュージックはディスコに。楽器の変化や録音技術の過渡期がもたらした意欲的な、しかし顧みられることの少ない、ポップスのゴールデンエイジだと僕は思っています。あの時代のレコードはだいたい面白いのでオススメです。


 駆ける馬の蹄の音のような、ロールするドラム。 これ、エレクトリック・ライト・オーケストラじゃん!!エレクトリック・ライト・オーケストラ(通称:ELO)は70年代から80年代にかけて世界的に人気を博したイギリスのロックバンドで、めちゃくちゃヒットしたグループだけれども、そのプログレッシヴな楽曲とメロディセンスからヒネたポップスファンにとってはおなじみの存在ではあるのですが、ELOネタをこの国でやる人はあまりいなくて、奥田民生さんぐらいなんですよね。ユニコーンの『ヒゲとボイン』やPUFFYの『アジアの純真』のドラムロールとボコーダーを使ったシンセサイザーのサウンドはELOです。むしろ、日本では奥田民生印みたいに認知されてあまり手を出さないのかもしれない。どうだろ? ところで、ジェリーフィッシュ(90年代初頭に登場したマニアライクなUSのパワーポップバンド・クイーンみたいなハードなサウンドとコーラスワークが魅力)ネタをやるのも、なぜかやっぱり奥田民生とくるりだけなんですよね。だからやっぱりくるりだったらELOも当然やるよなと思う。そういえば、竹達彩奈の『時空ツアーズ』(作曲:筒美京平)もわかりづらいけどELOネタでした。そのあたりのことはこのブログでも以前、少し触れたので、そちらもぜひ読んでみてください。


 ボコーダー加工されたハーモニーや飛沫するアルペジオ、ポルタメントするシンセサイザーの音を聴いて、やはり『ディスカバリー』1曲目の『シャイン・ラヴ』が元ネタになっていることを確認する。このアルバム、ターバン巻いた男性がジャケットに描かれている作品なので、だからくるりの方のジャケット(タイ人漫画家、ウィスット・ポンニミット・通称タムくんによるもの)でもみんなターバン巻いてるんですね。『シャイン・ラヴ』は当時流行していたディスコビートを取り入れた猛々しい楽曲ですが、『ロックンロール・ハネムーン』はより緩やかなきらびやかさが感じられる雰囲気がいいですね。案外、あだち麗三郎の『ベルリンブルー』を聴いたときの手触りに近い物を感じました。WHOLE LOVE KYOTOでも共演を果たした、ceroの荒内さんが弾きそうなコード感なんですよね。で、全体としては“いなたい”雰囲気を持ちながら、トランペットのメロディが室内楽のような構築的な和声感を演出している。くるりが「リズム&ブルースマナーのチェンバーポップを奏でるバンド」というのはよくわかる。不思議なことに、あまりそういう語られ方はされないですけどね。『ワルツを踊れ』でやったことがあのアルバムだけで完結するわけがないし、クラシカルな和声感はくるりの大きな魅力の一つと言えるのに。ただ、この曲はそれだけじゃなく、ギミックが多く仕掛けられていて、めまぐるしく聴かせてくれる一曲ですね。


 まあでも『ベルリンブルー』を引き合いに出したのは、 異国情緒を感じさせてくれるところなのかな。単純にターバンを巻いているからというのもあるけど、エレクトリックシタールの音とか、アラビアンナイトというか、魔法の絨毯で旅に出る音楽みたいだなと思う。


 『ロックンロール・ハネムーン』は岸田さんの歌声がいいですね。楽曲を通じて、歌い出しの音がいちばん高いから、普通だったらキーの低いAメロからサビにかけてだんだん盛り上げていけばいいんだけど、この曲は頭のところでいきなりお腹に力を入れる必要があるわけですよ。実際、グッと腹を据えるような歌い方をしているように聴こえる。「不安と清々しさが混じり合った」気持ち……それは窓の外に迫っている未来に向けての何かしらの予感(だから、やっぱりこの曲も「出会いと別れ」の歌なんじゃないかなあという気もする)からくるものだとしたら、この歌声は主人公の決心を力強く、一方では頼りなさげに語っているように感じます。安易にトニック解決しないコード進行も、後半の不穏な展開もそういうフィーリングに花を添えている。楽曲がどこに帰着しないということは、旅はまだ続いていくということです。ハネムーンというモチーフを引きながら、新しい旅立ちの音楽をまた届けてくれるというのは嬉しいことですね。流転し続けるバンド、くるり!ツアー中とのことですが、アルバムにも期待がかかります。




2013年6月19日水曜日

『なついろ - 夏の太陽のせいにして』



 もうすでにその片足を汀で濡らしている夏に向け、CDショップにて一十三十一『Surfbank Social Club』、『あまちゃんオリジナルサウンドトラック』、土岐麻子『HEARTBREAKIN'』の3作を購入しました。これらの作品が今年の夏を彩ってくれるであろうことは間違いなし! なのは確かだろうが、その一方でひっそりと(なのか?!どれくらい人気があるのかわからん)リリースされていたのが、今回紹介する、なついろの『夏の太陽のせいにして』というシングルです。


 なついろは、ジャズ歌手として活動していた森川七月が北川加奈、山崎好詩未と共に、そのユニット名の由来にもなっている「夏」をコンセプトにして結成したポップスグループで、かの由緒正しきJ-POPレーベルであるビーイング所属のアーティストとのこと。


 ファーストシングルは日本テレビ系アニメ『名探偵コナン』のオープニングテーマにもなったとのことで、四つ打ちとはいえ、正統派なビーイングサウンドの精髄が感じられる一曲。サウンドというか、パッケージされてる空気感か。保守的な音楽リスナーのなかでもさらに保守的なリスナー(過激右派)でないと、この音にはなかなか反応できないのではないですか。やーだって、こういうショートディレイかかったメジャーペンタ感のあるギターソロとか、こういうサウンドを最後に聴いたのは……『化物語』のするがモンキーの主題歌、神原駿河 (沢城みゆき)が歌う『ambivalent world』かな! しかもあの曲は、『スラムダンク』をはじめとする、ビーイング系アーティストが主題歌を担当していた90年代の少年マンガ原作アニメへのオマージュでしょう。スポーツ少女が主人公だから。


 低音域がふくよかな歌い手だ。サビ、ELTっぽさが頭をよぎるのはなぜ? いま一歩パンチが足りないなと感じる分、持田香織はやはりそれなりに特徴ある歌手だったのだなと思う。


 それにしても気になったのは、この楽曲タイトルが持つ独特の“うるささ”である。「夏の太陽のせいにして」どこがとはうまく言えないが、妙にまどろっこしいタイトルではないか? ファーストシングルの「君の涙にこんなに恋してる」はより一層まどろっこしい。説明が過ぎるのかもしれない。なんというか、暑苦しさを感じてしまう。


 「夏の太陽のせいにして」このフレーズをサビだけでは飽き足らず、あろうことに2コーラス目ではBメロにもこのフレーズを差し込んでいる。さらにMVを確認してもらえればわかるのだが、このフレーズにまつわる演出が過多なのだ。この感じは一体なんだ? この楽曲において、メロディやコードや何よりも先にこのタイトルだけが出来上がっていたのではないか、と思う。おそらくこのセカンドシングルの企画段階から……。関係ないが、ギターウルフはまず最初に楽曲のタイトルを考え、そのタイトルへと最終的に収斂されていくように作詞・作曲をしていくという。セイジ的に最も気合いの入る単語が「ジェット」らしいので、タイトルに「ジェット」が入ってるギターウルフの曲は、そういう曲です。


 公式プロフィールを見ると、いくつか思うところはあるのだが、何より「色々な夏を表現し、よりさわやかで高揚感のある音楽を届けます。」とあるのが目についた。「色々な夏」かあ。自分たちの表現にとっての“コア”の部分を、この「色々」と一言で言い切ってしまう朴訥とした潔さというか、ただただひたむきな人の良さが伺えるところが、なんだか嬉しかった。この人たちなら、他人を疑うようなマネは決してしないのではないだろうか。


それと、ファーストシングルのジャケットには独特の味わい深さがある。






こっちの曲の方がなんとなく良い。

2013年6月5日水曜日

『SMAP - Joy!!』



 SMAP、50枚目のシングル!50枚目ってすごいですよね。サザンでいうと、『愛と欲望の日々』が50枚目だとか。覚えてますか、「大奥」の主題歌だったやつ。B'zは去年出したシングルが50枚目だった模様。モーニング娘。でいうと『One・Two・Three/The 摩天楼ショー』。どれも比較対象として、いまいちピンとこない……


 さて、端的に言って、今回の楽曲「Joy!!」超名曲だと思います。"Yeah!"の掛け声とともにオルガンのスチーミーなリフとビブラフォンのリヴァーヴ感、ボ・ディドリーなビートが合わさればすっかり夏まっさかり。SAKEROCKやceroをはじめとした、昨今の東京インディエキゾチカシーンに慣れ親しんだ耳だったら、一発で入っていけるサウンドです。メロウなコード感も嬉しい。


 そして何より歌詞が良い。生真面目な性格のせいで、社会だったり人間関係のなかで押しつぶされそうになっている現代人の手をそっと取って、太陽の下へと連れ出してくれるような、そんな歌です。これまでの作品でいえば、名曲「SHAKE」と同じヴァイブレーションを持ちつつ、あの頃とは語り手の視点(「SHAKE」では主人公は働き盛りの社会人=物語の渦中にいる人物として設定されていたけれど、「Joy!!」ではもっと俯瞰的な視点が設定されているように感じる)を異なる位置に置くことで、「今現在のSMAP」の立場からしても、自然な語りかけができているように思う。

無駄なことを 一緒にしようよ
忘れかけてた 魔法とは
つまり Joy!! Joy!!
あの頃の僕らを
思い出せ出せ 勿体ぶんな
今すぐ Joy!! Joy!!

 このサビ、めっちゃ泣ける!!!効率主義が行き届いてしまったこの社会で「無駄なことを一緒にしようよ」なんて呼びかけてくれるポップスが存在することの喜び!

どうにかなるさ人生は
明るい歌でも歌っていくのさ
Joy!! Joy!!
あの頃の僕らに
今夜だけでもいいから
朝まで Joy!! Joy!!

 そう、それは束の間のものでかまわないんですよ。音楽があれば、その瞬間だけはつらいことを忘れることができる。朝まで踊り続けることができる。それがすなわち忘れかけられていた"魔法"にほかなりません。人々はその"魔法"のことを、たとえば"ブルース"と呼んでみたり、"ディスコ"と呼んでみたり、"ハウス"と呼んでみたり……手を変え品を変えながら、綿々と営み続けてきたんだと思います。音楽の根源的な喜びと、ひとさじの切なさみたいなものが、この曲にはちゃんと詰まっていると言えるでしょう。




 「Joy!!」の作詞作曲を担当した津野米咲。いったい何者なんだ?と思って調べてみると、なんと昨年EMI Records Japanからメジャーデビューを果たしたばかりのガールズロックバンド、赤い公園のギタリストではないですか。1991年10月2日生まれ、若干21歳のソングライターです。僕より一個下の学年じゃないか……高校の軽音楽部の先輩後輩で結成されたという赤い公園というバンドの存在は知ってはいたけれど、正直よくあるJ-ROCKのバンドというか、とりあえず僕が好んで聴いている音楽とはあまり縁のない存在だろうなと思っていたので、完全にスルーしていた。これを機に何曲かYoutubeで聴いてみたけれど、たしかにいいバンドだな、とは思うものの、でもやっぱりこの「Joy!!」みたいな楽曲とは結びつかない。ちなみに編曲は、菅野よう子さん。うーん、僕なんか死ぬまで菅野よう子さんと一緒にクレジットされることなんかないだろうな……


 SMAPはここ数作、作家陣を一新することで新たな風を入れ込み、新陳代謝を図ってきました。昨年のアルバムでも前山田健一(ヒャダイン)や志磨遼平(ex-毛皮のマリーズ)やROY(The Bawdies)であったり、その前は山口一郎(サカナクション)や永井聖一(相対性理論)などなどといった若いクリエイター(しかも、ロックバンド畑が多い!)を次々と起用した経緯があります。


 ただ、90年代生まれ(SMAPネイティヴ世代だ)で最初にSMAPに楽曲提供をするのはtofubeatsだろうと思っていたんですよ。それは彼の趣向(J-POP)だったり、これまでに成し遂げてきたこと、またシーンの動向から考えて、とても真っ当なことであると思える。なので、ちょっとビックリしましたね(Wikipediaを見ると、津野さんもアイドルソングやJ-POPを愛聴してきたとのことですが)。




 ちなみに今回のシングル、ビビッドオレンジ、ライムグリーン、スカイブルー、ショッキングピンク、レモンイエローの5形態でリリースされ、それぞれ収録内容が微妙に異なるのですが、僕はスカイブルーを選びました。デビュー曲である「Can't Stop!! -Loving-」から今回の「Joy!!」まで、全50タイトルのシングルを繋いだ「Can't Stop SMAP!! ~ 50 Singles Non-Stop Mix」が収録されているからです。全部で30分、息のつく間もほとんどないのですが、これがやはりというか、名曲の数々よ!


 二つ折りのブックレットを開くと、右のページにこれまでのシングルの全タイトルと作詞作曲のクレジットが載っているのですが、これが「SMAPの歴史」そのものなわけですよね。言ってしまえば、この歴史の一部として名を刻まれることは、この国でポップスを作る者にとっては"大きな夢"であるはずです。その碑(いしぶみ)に、平成生まれで最初にたどり着いた津野米咲は、たいした人物だと思います。というか、めちゃくちゃうらやましい。


 あ、それと、あらためて思ったのは、近田春夫先生も『考えるヒット』のなかでおっしゃっていたけれど、SMAPというグループは、たとえばバックストリート・ボーイズとか、最近で言ったらワン・ダイレクションのようなポップボーカルグループじゃなく、あくまでダンスグループであるということです。今回、駆け足ながら全てのシングルを聴き返してみて、最初の30枚くらい(タイトルでいうと、「Fly」「Let It Be」がリリースされるまで)のダンサブル感が半端ないわけですよ!「らいおんハート」で大人向けになったというか、方向性が変わった。ちょうど木村くんが結婚したタイミングのシングルだったし。「世界に一つだけの花」のヒット以降は、様々なクリエイターを起用して試行錯誤しているものの、成果としてはいまひとつであると言えます。山口一郎が作った「Moment」とか、ぜんぜん踊れないでしょ。単純にリズムが面白くないし、サウンドやメロディが醸し出す"湿り気"の方向性は歌謡曲のそれであって、SMAPが元来持っていたフィリー感、ディスコミュージックのそれとはやっぱり違うと思う。でも今回は、この50枚目というメモリアルなタイミングでいいシングルが切れたのは本当に良かったですね。