2013年11月26日火曜日

『環望 - ハード・ナード・ダディ—働け!オタク!!—』



「好き」が仕事でなにが悪い。あたまに「エロ」のつく方の漫画家・茶畑三十歳は既婚者ながらも収入の大半を趣味につぎ込むオタクライフを満喫中。そんな彼に子供ができて…? 漫画家とお金、その趣味と生活。これは僕らの物語だ! 漫画家・環望が実体験とフィクションを織り交ぜて描いた半自伝的作品。旬の業界ネタも織り込んだ話題作!

「日本では就職とか、結婚とか、諸々の原因で音楽ファンから卒業する人が多い。それを機にCDほとんど売っちゃうみたいな。生活スタイルを変える一つとして、音楽から卒業するってのはあると思う」街の中古レコード屋で以前働いていた方がかつてそのようにツイートしていていたが、こうした光景というのは至極ありふれたものであるらしい。

 今更ですが、僕はオタクだと思います。稼ぎの大半、というかほぼ全てを僕の場合は、レコード、漫画その他に費やしてしまうという類いの。ときには「クリエイターへの礼儀として金銭を払うことは当然だし、文化発展のためにも大切なことだからしょうがない」とかなんとか、それらしいことを言ったりして。オタクたちのあの妙な意識の高さは一体何だ?! そんなものは、手の付けられない欲望を都合良く外部に理由付けしようとしているだけにすぎない。エスカレートするばかりの物欲は、いつか折り合いをつける瞬間が来るのか? それは果たしてどのような理由が考えられるだろう。だけど、当面の間は自由にさせてほしい。僕には使命がある……(何の?)

環望『ハード・ナード・ダディ—働け!オタク!!—』

 さて、『ハード・ナード・ダディ—働け!オタク!!—』。11月22日「いい夫婦の日」に発売されたばかりの新刊です。作者の環望はキャリアの長い作家で、アニメ化もされた『ダンス イン ザ ヴァンパイアバンド』など作品多数、であるものの未読……。本作のことは、『燃えよペン』『アオイホノオ』などで知られる島本和彦のツイートで知りました。帯文も寄せています。



 エロ漫画家である主人公・茶畑三十歳(ペンネーム?)は正真正銘のオタク。収入の殆どをDVDBOXだのフィギュアだのといったものに片っ端からつぎ込む生活を満喫している。というのも彼の妻はその道10年以上のベテランデザイナーであり、妻の稼ぎのおかげで十分暮らしていくことができるからこそ、自由気ままなオタクライフを送れるのだ。つまりは、ヒモである。オタク生活の描き方が、マニアックなネタに限らず、実際に今年放映されたアニメや刊行されたマンガを登場させたりと、ホットな時事ネタを取り入れることで"いかにもそれらしい"印象を与えてくれる。

環望『ハード・ナード・ダディ—働け!オタク!!—』

 しかしそんな日々は突然に終わりを迎える。ある夜、妻はこんな風に切り出す。「赤ちゃんができました。いまちょうど二ヶ月目です」妻は身重のために仕事を辞め、茶畑本人の収入一本で生活費も、出産費用も引越し費用も賄わなければならなくなるという。これまでは当然のように購入していた漫画の新刊も、リイシューされるDVDBOXも、何でもかんでもとにかく買うなんてことはできなくなるのだ。想像もしていなかった現実を突きつけられて初めて、彼は「大人になるってどういうこと?」と考えるのです。



 まーしかし、なんと迂闊な……(笑)「芸事に従事する人間たるもの、家族計画だけは慎重に」というのが、書き物の道を志している先輩の教えだったことを思い出すが、それでもこういった事態には抗えないもの。ただ、この作品の主人公の場合は既に漫画家として軌道に乗っているわけで、主な問題となるのは自らの信奉する"オタク道"と現実とをどのように折り合いをつけるかということ。育児エッセイ系だったらありそうな、妊娠後のドタバタなんかもあまり描かれないし。または"父親としての自覚"だとか。言ってしまえば「それぐらい割り切れよ」と世間は切り捨てるであろう、オタクの与太話でもある。とはいったものの、そんな簡単な話でもない。僕にはよくわかる……。これまで全身全霊を懸けて打ち込んできたことを、アッサリとやめることなんて、できるか?! 本人にしてみれば、興味を失っただとか、そういうわけでもないのだから。背負い込む責任の大きさこそ結婚生活はディザスターたる所以だが、真っ当な人間であれば誰もが通過する道でもある。主人公のうだつのあがらない態度を見せつけられるたびに、アナタ(ワタシ)がオタクであればあるほど、ただただ身につまされる。いや、本当に読んでいて苦しかった!



 自分の場合……。22歳の僕には、茶畑のような現実がいまのところ実際に訪れているわけではないので、当面はいまの生活を続けていくだろうが、このような未来を想像しないでもない。実際、どうなんだろうなあ。やはり、ほとんどの人は綺麗サッパリ引退していくのだと思う。冒頭に引用した音楽ファンたちの例のように。本当は程度をわきまえながらそれなりの付き合いを続けていくべきであると、先の元レコード店員の方のツイートは続くのだが、それはなかなか難しいところなのかもしれない。茶畑も、なんだかんだでキチンと真っ当な夫になろうと現実を受け入れている。

 いや、それは当然そうであるべきなのだが、さらにその先の「一人の社会人として、家族人としての責務を全うしながら、いかにオタク道を歩むか」という部分が読んでみたかった。しかし、本作は掲載誌の路線変更によって打ち切り、急展開のエンディングで結ばれている。あとがきによれば「単行本の反響がよければ再開もある」とのことだが、個人的にも続編に期待したい。

環望『ハード・ナード・ダディ—働け!オタク!!—』

 ところで、本作はいわゆる"漫画家漫画"であるため、業界のウラ話的なネタもやはり登場する。作品内でいかに収入を増やすかに苦心する茶畑の前に、出版業界の現実、とくにエロ漫画業界の現実が立ちはだかるのだが、そのあたりの事情がなかなかおもしろい。《コンビニ売り》《書店売り》といった雑誌の販売形態によって、ページ数の規定であったり、内容の規定であったりといった、具体的な違いが解説されている。そしてその影には、現在何かと取り沙汰されている「東京都青少年の健全な育成に関する条例」などの問題がチラついてみえる。その規制のさじ加減ひとつで、茶畑のような末端のクリエイターの生活は大きくその地盤から揺さぶられてしまうのだ。もちろんエロ漫画に限った話ではないが、ここにはのっぴきのならないものがある。変態鬼畜エロ漫画家にも家族がいて、守るべきものがあって、人々が糾弾するようなエロ漫画を描くことこそが、彼らの唯一の生きる手段で……。なにかに「NO」と唱えるときはそれぐらいの想像をしてから言うべきだと、僕は思う。

(ちなみに有害コミック問題の発端に関しては米沢嘉博『戦後エロマンガ史』に詳しいのだけれど、90年代中頃までの動向を書きあげたタイミングで筆者急逝、未完に終わっている。"その後"についての仔細な研究はどこかで誰かによってまとめられているのだろうか。同人誌なんかでありそうだけど)

2013年11月9日土曜日

『高木ユーナ - 不死身ラヴァーズ(1)(2)』



甲野じゅんの人生にたびたび現れる“長谷部りの”という女の子。出逢うたび全力で長谷部に恋するけれど、想いが届くと彼女は幻のように消えてしまう! そのたび身を裂く悲しみが甲野を襲い、そしてまた、彼女は別人の“長谷部りの”として甲野の前に現れる!! 出逢いと別れを繰り返し、甲野は入学した大学で、またまた長谷部に出逢う。また長谷部は消えてしまうのか!? それとも今度こそ恋は実るのか‥‥!?

 村上春樹が特別好きというわけでもない(だからといって嫌いということもない)が、『スプートニクの恋人』の、どんな小説だったかもすでに覚えていないけれど、「22歳の春にすみれは生まれて初めて恋に落ちた。広大な平原をまっすぐ突き進む竜巻のような激しい恋だった。それは行く手のかたちあるものを残らずなぎ倒し、片端から空に巻き上げ、理不尽に引きちぎり、完膚なきまでに叩きつぶした」という書き出しだけはなんだかとても印象に残っている。いわゆるボーイミーツガール(『スプートニク』はガールミーツガールだけれど)のあの感じが、必要以上に大袈裟に綴られているのがいい。パンを加えた少年少女が道端でぶつかり合って起きる核分裂……または、逆回転する世界の混沌を疾走する片想い(cf.@Teke1984)。突然に起こるラブストーリーは出来ればそんな風にショッキングであってほしいし、そしてそんな瞬間が何度だって訪れてくれるといい。


 高木ユーナ『不死身ラヴァーズ』。9月に第1巻が出た時点で注目はしていたものの、ズルズルと書く機会を失ってしまっていたので、第2巻が発売されたこのタイミングで書いてみることにしました。『進撃の巨人』のアシスタント出身である作者の連載第一作である本作は、『進撃』同様に『別冊少年マガジン』で連載されているだけあって、まさに少年漫画といったハイなテンションで貫き通されている。少年誌を読む機会もなくなってしまったし、普段はこういう方面の作品はあまり追っていないのだけど、しかしこの作品は好きです。そもそも『別マガ』(この略し方でいいのかな……?『別冊マーガレット』の『別マ』と混同しそう)という媒体は「週刊少年誌では試す事の出来なかった独自の才能」を試す場として機能していて、そういう環境の中で前述の『進撃』だったり『惡の華』のようなヒットを生んでいる。単純にいいことですよね。本作も、そんな独特の存在感を持った作品のように思います。

高木ユーナ『不死身ラヴァーズ(1)』

 主人公の"甲野じゅん"は、"長谷部りの"という女の子に恋をします。それは、その理由を説明することのできないほどに猛烈で、運命的なものであって、ゆえにこの物語の命題です。どうしたって彼女に惹かれてしまう甲野は、持ち前の一直線な性格で果敢にアプローチをかけ続けた結果、その恋を叶えるのですが、何故だか両想いになるとその瞬間に長谷部の存在は幻のように消えてしまう。その姿も存在していたという証拠すらも、甲野ただひとりだけを除いては、世界中から完全に忘れ去られる。しかし、失意の日々を過ごすうちに、またまた何故だか甲野の目の前に"長谷部りの"という名前の、姿も同じ、しかし記憶も性格も、年齢もシチュエーションも全く異なる別人が登場。そしてそのたびに甲野は全身の細胞が沸き上がり、ふたたび恋をしてしまう、という……ここまでが物語冒頭の10頁で一気呵成に説明されるので、それはもう、ものすごいテンション。

 ふたたび出会った長谷部は一個下の後輩で、なんだか乱暴な性格のギャルだけれど、実は書道の達人。甲野は彼女を追って書道部に入り、彼女の目標を献身的にサポートすることでだんだんと距離を縮めるが、やっと二人が結ばれようという瞬間に、彼女はやはり消えてしまう。以下、この一連の流れの繰り返し。

高木ユーナ『不死身ラヴァーズ(1)』

 先ほども述べたように、少年漫画らしいアップダウンの激しい作品。ギャグタッチもシリアスなシーンも矢継ぎ早に飛び出してくる。それらひとつひとつの描写の思い切りがとてもよいので、そのBPMとリズム、勢いがこの作品のあり得ない設定も、甲野の考えるよりも前に動いてしまうという性格も、すべて納得させてしまうようなパワーがあります。長谷部は正直で可愛らしい女の子ではあるけど、すごく魅力的なヒロインというわけではないと思うのですが、しかし甲野は彼女のちょっとしたところだったりがたまらなくツボらしく、心も身体も無条件で彼女のことを求めてしまう。実にわかりやすくていいじゃないですか! 消えたかと思えばまた現れて、衝撃的に恋に落ちる。ひとつの物語でそう何度も描くことのできないボーイミーツガールのファーストインパクトをこうして何度も描いてしまうというのは、本作の大きな魅力でしょう。新鮮な熱量を失わないから、やっぱりそこは読んでいて楽しい。しかも、恋が成就すると彼女は消えてしまう。ルシールであり、ゼア・シー・ゴーズですよ!(『スヌーザー』読者にはおなじみの概念)そのたびに身を裂くようなブルーが彼を襲うのです。本来、恋愛物語というものは、たっぷりと時間をかけてその経過を描いていくことにその醍醐味があるわけだけれど、本作には恋愛のはじまりと終わりというピークの部分しかほとんどないわけで、それをこのハイテンションで駆け足飛びにやられてしまうと、まーやっぱりわかりやすいですよね。

高木ユーナ『不死身ラヴァーズ(2)』

 正直なところ、彼の葛藤とか、純粋な想いを貫き通すその紆余曲折みたいなものとかは、現時点では、個人的にはどっちでもいいかなという感じ(そこは本当に少年向けの部分だから)ではある。とは言え、ひとつひとつのエピソードの肝心の部分はそこであるはずなので、あまり関心がないクセに引き込まれてしまうのは、ギュッと詰まっていてわかりやすいということに加えて、作画の面白さというのもあるかもしれない。たとえば主人公に悲しいことが起きたときの、彼の心が引き裂かれていく様子を表現する描写。本編ではそうした場面が何度も登場するが、漫画らしいひと捻りがあって、なかなか面白い。そもそもデビュー作にも関わらず設定からしてガッツリSFだし、王道を描いているようで少しメタっぽいというか、作家としてけっこう器量や余裕があるのかもという気もする。ギャグのセンスも、そこは読む人それぞれではあれど、少なくとも僕はわりと好き。

高木ユーナ『不死身ラヴァーズ(1)』

 最初は同級生、それから後輩→先輩→また同級生→中学生→小学生→……などとそのシチュエーションのハードルが高くなり、二巻では"人妻"にまで到達してしまう長谷部。今後はどうかなー。登場するたびに変化する長谷部の性格やルックスのディテールにも注目。物語としてはどうなのだろう。ちょっとクサイところのある恋愛論だけに関しては、主人公が成長することでもう少し抜き差しができてくるとうれしい。また、この怪現象の謎解きのようなものはあるのだろうか。わざわざ描くようなこともないとは思うけれど。

2013年10月11日金曜日

『panpanya - 足摺り水族館』



2011年にすべて手作業で制作された作品集成『ASOVACE』を再構成。 特殊な形態のため未収録となっていた「足摺り水族館」と、 書き下ろしの紀行文などを加えた、現在のpanpanyaに至るまでの作品集。 過ぎ去っていった消費社会の残像と、緻密かつデタラメに浮かび上がるハイコントラストな風景が生み出す既視感。

panpanya『君の魚』

 
 この短編集に収められた作品の多くは、基本的には、主人公の女の子が町を歩いているといつのまにか異世界へと迷い込むといったお話です。拡張する日常のなかでの異化作用というか、日常の《ちょっと先にある》世界を突き進んでいくような、そんなSF感がとても魅力的な作品群ですね。全体的にグニャグニャと引かれる線には、不安定な雰囲気がよくよく表れている。同じ短篇のなかで、さらには同じコマのなかでさえもタッチがコロコロと変わっていったり。描画方法でいえば、インクで描かれた線はもちろん、鉛筆だったり筆もあったり、さらには写真などのコラージュまで。『イノセントワールド』はもともとキャンバス地に描かれているのかそれともデジタル編集でそういう効果を加えているのか……なんにせよ様々な手法が用いられているのは確か。もちろんそういう作品は今や珍しいということもないけれど、それでも抜群に上手いのですよ。使いどころというのもそうだし、何より絵がとても上手いので、描き分けが映えるわけですよね。『冥途』での飛行船の絵なんかすごい。最初はコラージュを用いているのかと思ったぐらい、画面のなかで立ち上がってる。


 街の風景であったり人工物や通り過ぎる人々、または魚たち(=水族館という場では鑑賞される対象だ)などは精密に描き込まれているのに対して、主人公やその仲間などの、物語の"こちら側"の人物は極端にデフォルメされて描かれている。それは、何を自分から切り離して捉え直し対象化するか、反対に何を主観化するかということ、つまり、どういう風に世界を認識するか? ということに意識的であるということでしょう。まあそもそも、得体の知れない物体が登場しまくったりしますし、具体と抽象がハッキリした世界のなかで登場人物は圧倒的に異邦であり、そしてその戸惑いは、"異世界に迷い込んでいく"という物語にしっかりと合致しているのです。


panpanya『完全商店街』


 一方で、すごくボヤーッとしてる感じがいいんですよね。主人公も血圧低そうな女の子ばかりだし、どのキャラクターもデフォルメされているからか、とぼけた雰囲気がある。商店街や水族館、または多摩川の風景はノスタルジック(どんな作家からの影響があるんだろうと考えていたけど、景色のなかに佇立することで人物が立ち上がってくるこの感じはつげ義春からだろうか?)だ。《過ぎ去っていった消費社会の残像と、緻密かつデタラメに浮かび上がるハイコントラストな風景が生み出す既視感》というキャッチコピーはまさにその通りで、懐かしい風景をしっかり見せながら、その《ちょっと先にある》世界を豊かに描く、その想像力が何よりも魅力的だと思います。


 得体の知れないものを探して《あらゆるものが並び手に入る商店街》に足を踏み入れる『完全商店街』も良いけれど、『新しい世界』と題された一編もいい。『新しい世界』は、自由研究のネタを求めて町を歩き出会った「新物館」—《日々新しく生まれ変わる世界のより新しい姿を展示》する—を鑑賞して回るだけのお話で、《新しい風景》《新しい新しい人々》《新しいひらがな》《新しいクイズ》などなど、主人公はあらゆる《新しい》ヘンテコなものを冷ややかな目で見つめる。フューチャリスティックであるがゆえにかえってオールド。シュールレアリスムや未来派絵画をいま振り返るとどこか牧歌的に見えるというアレ。いわゆる"レトロフューチャー"な世界というかコンセプトが僕はすごく好きだったりします。それを描くアイデアが実際どれも面白いのが良かった。どこかおかしくて懐かしい、だけど絶対的に違和感がある。本作の筆致は実に鮮やかでチャーミングであると言えます。


panpanya『新しい世界』


 Twitterなんかを見ても、かなりアブストラクト、いやあまり多くのことを語らないというか、情報がそんなにないので、どういった方なのかということがあまりわからない。公式サイトみると廃墟写真や、インターネットの番外地へのリンク集みたいなのがあって、やはりそういうのが好きなのだなと思ったり。本作も「直取引のみにて発注を承って」いるとのことなので、一般書店には置いていない(取扱店舗一覧を見ると、文教堂だったり渋谷TSUTAYAや池袋ジュンク堂に置いてあるみたい)のでなかなか取っ付きにくい部分もあるかも。まあ、amazonで手に入れるのが一番手軽でしょう! 僕は8月のコミティアのときに買いました。あまり他にないような装丁(このビニールのカバー、なんて言うのだろう?)でとても素敵です。



『足摺り水族館』特設サイトです。
いま気づきましたが、次回のコミティア106注意事項漫画も描かれていますね。これ非常にpanpanya節炸裂!といった感じで、とてもいい。

2013年10月1日火曜日

『町田洋 - 惑星9の休日』



新人・町田洋による、全編描き下しデビュー単行本。 辺境の小さな星、“惑星9"に暮らす人々のささやかな日常を描いた連作短編集。 凍り付いた美少女に思いを馳せる男、幻の映画フィルムにまつわる小さな事件、 月が惑星9を離れる日、愚直な天才科学者の恋…… 風にのって遠くからやってきた、涼しげな8つの物語。

 なんとか夏が終わってしまう前にこの作品を紹介したかったのに僕の場合は出会いが少し遅かった。本当にジャストなタイミングを掴むのはいつだって難儀なことだ。8月の真っ最中に刊行された本作は、昼下がりのプールサイドに立てたパラソルの陰をくぐり抜けてゆくサマーブリーズ(馬鹿みたいな表現ですね)、もしくは、やはりよく晴れた日曜日の午後の洗濯物を巻き込みフワッと舞い上がる乾いた風と乱反射する青と白と『プレヴィザォン・ドゥ・テンポ』。雨の降らないこの星では上昇する気温のせいでロードショーは続く。町田洋のデビュータイトルとなった本作『惑星9の休日』は、全編描きおろしのSF短編集である。雑誌への投稿や同人活動を行わず、インターネット上にひっそりと漫画を発表し続けてきた作者の素性は未だ謎に包まれている。竹熊健太郎責任編集のWEBマガジン《電脳マヴォ》に短篇「夜とコンクリート」が掲載されたのをきっかけに、静かに話題を集めている。


《辺境の小さな星、惑星9(ナイン)は恒星への公転に対して垂直に自転している》


 非常に書き込みが少なく、画面がスッキリとしている。すべてが同じ細さで引かれた線は陰影をもたず、それがこの作品の、どこか非現実的な空気をほど良く演出している。その代わりというわけでもないが、スクリーントーンのみで光の陰影を表現するのが上手い。線はすべてフリーハンドで描かれているため、独白の四角い囲みも建物の柱もグネグネとひしゃげているが、人物の線はやたらと直線的。ゆえにその世界は風通しがよくフレンドリーな感じのする一方で、たとえば衣服のシワなどは省略されているなど、非常に抽象的な印象も受ける。そういった意味で、現実味を欠いた80年代的な意匠が想起され、80年代的であるがゆえに現在にジャストなセンスが感じられる。

町田洋『UTOPIA』


 雰囲気は申し分ない。だが、本作を傑作たらしめる要因は、そのストーリーが物語るドラマと慕情によるものだろう。表題作「惑星9の休日」は、陽の差さない永久影と呼ばれる北の窪地にある、すべてが凍り付いたまま姿を変えることのない町に遺された美しい女性に惹き付けられた男と、彼に想いを寄せる小さな娘の出会いが描かれる。「衛星の夜」では年老いた宇宙飛行士が若い時分に月で遭遇した、永遠の時間を生きる生命体と心を通い合わせた日々を回顧する。「午後二時、横断歩道の上で」は、夏の日のある昼下がりに起きた小さい騒動にまつわるエピソードだ。あらかたの問題が解決した帰り道、車ひとつ通らない長い路の上で、ため息をついて横断歩道を渡ろうとするその時、男は、隣を歩く彼女と過ごす何気ないこの瞬間を《永遠》であると確信する。たっぷりと紙幅を割かれたコマ運びは、間延びしたかのように見える日常をドラマチックに捉える。ボーイ・ミーツ・ガールの形式を取ったこれらの作品からは、作者の"ミクロ/マクロ"な時間へのまなざしを伺うことができる。漆黒の宇宙空間のなかで淀みなく永久に流れ続ける時間も、ほんのコンマ一秒の世界をときめかせるかけがえのない時間も、淡々としたドラマツルギーのなかで等しく描き出される。永遠と一瞬の前で、それぞれの主人公たちは想いを馳せる。そのときはじめて滲み出すセンチメンタリズムに、エヴァーグリーンな輝きを感じずにはいられないのだ。

町田洋『午後二時、横断歩道の上で』


 SF作品としての、優しくも冷ややかな手触りはカート・ヴォネガットの小説が近いだろうか。漫画としての軽さと柔らかさには、帯文を寄せている絵本作家のたむらしげるや、たむらから大きく影響を受けていると思われるコマツシンヤ(今年の初夏に刊行された『8月のソーダ水』もやはり青と白のスペクトルが眩しいそれはそれはヘヴンリィな作品で、こちらも名作なので是非)に似たものを感じる部分もあるが、淡白な線と人物造形と、ときには異形の者を登場させながらドラマチックにコミュニケーションを描く手腕には市川春子の漫画を想起(本当は、あんまり引き合いにだしたくないのですけど……)させられたりもする。先に挙げた3つの短篇のほかにも、本作には珠玉の作品がいくつも収められている。ということで、ピンとくるものがある方は書店に買いに行きましょう。


 こちらのサイトから表題作「惑星9の休日」を試し読みができます。また、電脳マヴォで公開されている諸作品も実に素晴らしい。これまで述べたような暖かな光と柔らかい線は「夜とコンクリート」に、直線的な線描は「青いサイダー」に、時間感覚は「夏休みの町」にそれぞれ顕著にみることができる。



2013年7月10日水曜日

『渡辺麻友 - ラッパ練習中』




 AKB関連の音源を購入したのはこれが初めて。当然、このブログで扱うのもこれが最初になる。先日、歌番組で披露されたAKB48の新曲『恋するフォーチュンクッキー』(Youtubeに調度いい音源がアップされていない……)が、なかなかの佳曲だった。個人的にはAKBには露悪的であれとは言わずとも、もっと俗っぽい(良い意味で、である。役割というものがあるからだ)存在であって欲しかったとも思うのだけれど、いい曲を作ることに当然罪はない。今回取りあげるこのシングルも、悪くない。ブラスセクションをフィーチャーした楽曲で、大きなギミックが仕掛けられているわけでもないが、ポイントを押さえながらまとめられていて、それなりに楽しく聴ける。


 歌詞。おそらく受験生の、冴えない男子高校生が主人公というのは良い。歌われているのは、行きつけの近所のファミレスの店員が可愛いというだけの、本当にそれだけの内容だ。どうしてそんな歌を渡辺麻友が歌うのか? しかし、これは男に歌わせても、物凄くジメッとした情けない童貞ソングにしかならないんじゃないか。おそらく、この感じを、男子がキラキラとしたフィーリングをもって体現する磁場は、この国には既に存在しない。ジャニーズ事務所で目下一番若いグループであるSexy-Zoneに歌わせたとしても、なかなかこうはならないと思う。たとえ可愛い顔の男の子がいたとしても、こういう曲に求められるような「良い意味で情けない」キャラクターは、少なくともマスの場では成り立たなくなっているんじゃないかな。というのも、最近のティーン・ポップスなり少女漫画なりは、マセすぎな気がするのよ。小学生にしてギャル男を標榜する盛りヘアスタイルのキッズが実在するこのご時世、二枚目であるということが低年齢化しているし、だいぶ意識的というのはあると思う。もちろん、これも物事の一面しか捉えられていないだろうが……。いまこの国でボーイズ的なものが商品としてパッケージングされるには、『テニスの王子様』みたいにエクストリームな馬鹿になるか、鈴木福くんみたいに情操教育上都合の良い去勢された可愛いさを装うか、EXILEみたいにマッチョの不良になるかのどれかしかない。


 それはさておき、『ラッパ練習中』に戻ろう。言葉遣いにところどころ古臭さを感じるなー。「○○だろう」というような言い回しにはどこか古き良き文学少年の、朴訥なナイーブさがある。なんだかNHKの『みんなのうた』みたいだし、溌剌とした笑顔を見せる渡辺麻友の“健康的なハメの外し方”も、「うたのお姉さん」に近いものを感じる。どうやら、トランペットのラッパと、コーラのラッパ飲みとをかけているらしい。ふむ……これはこれでいいのだけれど、「ラッパ練習中」というテーマの曲であるのであれば、たとえば、セルジュ・ゲーンスブールだったらもっとエゲツない意味を込めてくるのではないだろうか。まず、歌詞の主人公は男性に設定せず、歌手と同じ女子にする。内容は現在のバージョンのままで、ところどころの辻褄を合わせるだけで十分だ。そこで「ラッパ」とは何を指すのか。この場では明言しないので、察していただけるとありがたい。いや、本当に下世話で申し訳ないのだけれど、ゲーンスブールの頃のポップミュージックは、そういう意地悪な捻りを持ちうることが可能だったというだけのこと。ただ、秋元康は『セーラー服を脱がさないで』の頃からスキャンダルであろうがとてもストレートでわかりやすいというか、婉曲的なダブルミーニングを用いるようなことをする人間ではないかもしれないけれど。









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告知です。

『流動化する都市大衆音楽/そのゆるやかな衰退と隆盛にまつわる三つの中間報告』
2013.08.03(SAT) at 下北沢mona records
【出演】 失敗しない生き方 / ふるえるゆびさき / Love and the Krafts
【司会】 マーライオン
【時間】 open 18:30 / start 19:00
【料金】 adv/door 共に¥2,000(+1D)

2月にリリースしたEP『遊星都市』が反響を呼んでいるベッドタウンポップバンド失敗しない生き方と、溌剌としたチェンバーサウンドで圧倒的な育ちの良さを感じさせる大学生6人組ふるえるゆびさき、そして僕のバンドLove and the Kraftsによるスリーマンです。さらに司会として、曽我部恵一との共同企画が話題にもなった20歳のSSW、マーライオンがイベントを盛り上げてくれます。予約受付中ですので、ぜひぜひご連絡ください。

2013年7月3日水曜日

『ザ・なつやすみバンド - サマーゾンビー』



 僕、今にして思えばずいぶん小さい頃から自分でCD買ってたなと。生まれて初めて買ったCDは小学校一年生の頃、入学と同時に放映が始まった『ポケットモンスター』の主題歌である『めざせポケモンマスター』。同じマンションに住んでた年上の兄ちゃんのウチに遊びにいったら持ってるのを見せられ、それで歌なんか興味ないのになんとなく僕も欲しくなっちゃって、お小遣いは貰ってたから買いにいったんじゃないかな。家から歩いて10分くらいのところにあおい書店があって、よく『コロコロコミック』や『名探偵コナン』を買いに行ってたんだけど、本だけじゃなくCDも置いてあったからたまにフラ〜っと行って『爆走兄弟レッツ&ゴー』のエンディング曲とか買ったはず。それらのCDは当然みんな8cmのシングルだった。



 ザ・なつやすみバンドは「ザ・」がつくほどその名が体を表す、ピュアでジュブナイルなポップミュージックを演奏するグループ。アルバム『TNB!』以来一年ぶりのリリースとなった『サマーゾンビー』、Youtubeで最初に聴いたときはさほどピンと来ていなかったのだけれど、この短冊シングルのトレーの網になってるところを見つめながらオーディオから「せーの!」という子供たちの声が飛び出してきた瞬間「ウワーッ」と思った。僕がリアルタイムで短冊シングルを買ってCDに合わせて歌っていた頃の記憶が全部よみがえってきた。それだけでもう僕としては十分、735円分元は取ったぞと満足しました。22歳の僕にはそんな風に響いたけれど、他の年齢の人たちにはどういう風に感じるのだろう。


♡の合図で目が覚めた
夏がくるよ やってきたよ
真剣なごっこ それは冒険
おたのしみが たくさんだね


 大江千里『夏の決心』とともに育ってきた世代的にはこのシングル、90年代のポンキッキーズで使われてても違和感ないくらい、夏休みがやってきた最初の朝の、ドキドキとワクワクが詰まっています。ポンキッキーズか。そう思うと、中川さんのボーカルが矢野顕子みたいに聴こえてきた。


この映像めちゃいいですね。
レコードに針を落とすとこから始まるのが2013年っぽい。


個人的にはワニやイグアナのイメージが強かったけど、
こっちはこっちで黒田清輝を持ってきているとは……なんて教育的態度なんだ。




 一方で、この曲のいいところはただ単純にノスタルジアを感じさせてくれるだけではないところなのかなとも思います。

たとえば街がゾンビーで
あふれ返っても大丈夫
ショッピングモールで暮らしましょう
平和な世界を夢見ましょう


 「ファスト風土化する日本」だなんて言葉があるように、均一化されのっぺりとしていく郊外の街。その元凶、悪の象徴として揶揄されるショッピングモールをここでは「大丈夫」と読み替える。そこは何でも揃っているし、休みの日には家族や友達が集まる。たまに車で出掛けたときには、そのピカピカとして大きな建物に誰もが胸を膨らませてしまうような場所。子供たちにはきっとそんな風に見えているはずだ。『たまこまーけっと』のうさぎ山商店街みたいな場所はたしかに素敵で、そういう想像力も絶対に求められているのだけれど、3分半のポップソングにはよりシンプルで原理的なものの見方が必要だとも僕は思う。そしてそれは同時に、未来に対してポジティヴな態度を示すものであってほしい。これからを生きる子供たちがこういう感覚を持っているのだとするならば、これはゆくゆく来たるスタンダードであって、問題はさておき、まずは祝福されるべきものなのだ。そういう想像力を持つことこそが真の意味で“タフ”であるということだし、それを映画だったら2時間かけて描くところをポップソングはものの数分で描いてしまうなんてことが時たま起こるから音楽は今でも聴かれ続けるんじゃないかな。


君がいることがもう事件さ
うれしすぎて 二回も抱きしめちゃうんだよ


 なによりこの感情! 中川さんの歌声はいじらしく、バンドは喜びにあふれていて、胸がいっぱいになってしまう。しかし、「サマーゾンビー」とは何のことだろう? もしかして黄泉がえり的なことを歌った曲なのかもしれない。ザ・なつやすみバンドは「ジュブナイルなポップ」とは言ったものの、「何かが終わってしまったあと」について歌ったような、ズシリとした歌が多いのも事実だ。「たべかけのアイスは溶けておもうだけじゃたりなくなる」だとか「ハート」とか全部深読みしたくなってくるな。一見するとシンプルなのに実はホラーだったりするんじゃないかと思うとちょっと怖い。うーんでも、今回はこれぐらいにしておこう。一夏かけて、繰り返し繰り返し「サマーゾンビー」へと想いを馳せてみたい。






 余談〜8cmCDについて調べてみたときに得た豆知識。世界初の8cm(欧米では3inch)シングルはフランク・ザッパのPeaches En Regalia。なるほど、流石フランク・ザッパ。あーでも、ジャケットはレコードの7inchシングルの延長というか、短冊型のパッケージはやっぱり日本独特のものなのかねえ。欧米ではほとんど普及せず、プロモ盤やオマケのCD(そういえば、今年の4月に出たフレーミング・リップスの『The Terror』のDisc 2が8cmCDだった)として稀に生産されるぐらい。








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告知です。

『流動化する都市大衆音楽/そのゆるやかな衰退と隆盛にまつわる三つの中間報告』
2013.08.03(SAT) at 下北沢mona records
【出演】 失敗しない生き方 / ふるえるゆびさき / Love and the Krafts
【司会】 マーライオン
【時間】 open 18:30 / start 19:00
【料金】 adv/door 共に¥2,000(+1D)

インディ爆心地、下北沢のモナレコードでこのような催しをやります!

2月にリリースしたEP『遊星都市』が反響を呼んでいるベッドタウンポップバンド失敗しない生き方と溌剌としたチェンバーサウンドで圧倒的な育ちの良さを感じさせる大学生6人組、ふるえるゆびさきと僕のバンドLove and the Kraftsのスリーマンです。さらに司会として、曽我部恵一との共同企画が話題にもなった20歳のSSW、マーライオンがイベントを盛り上げてくれます。

詳しくは序文も寄せていますので、上のリンク先に飛んでもらえればと思います。
来場特典なんかも用意していますんで是非ーーー!

2013年6月27日木曜日

『くるり - ロックンロール・ハネムーン』














 2011年に加入したギタリスト、吉田省念が脱退し、三人体制となったくるりの最初のシングル。iTunes Store限定で配信がスタートしたので、さっそく購入しました。くるりというバンドにおいてドラマーはハードルが高いポスト(そのあたりのことは今日ちょっとだけツイッターの方に書きました)なのでともかく、ギタリストはキャラクターが大事なのかなと思っていたので、四人体制は安定して続くんじゃないかと思っていたけれど、アルバム一枚だけで終わっちゃいましたね。


 ここ数年のくるりは、レフトフィールドのロックバンドという立ち位置から、大衆歌謡へと役割をシフトさせながら(NHKドラマの主題歌を担当するなんて『図鑑』の頃に誰が想像しただろう)、中堅として上の世代、同世代、下の世代それぞれとともに穏やかな交流を謳歌しているように見えます。まあ言ってしまえば歳をとったということですよ。さすがに、岸田繁を含めたメンバー全員がわいわいツイッターをする未来が来るとは思わなかった。そんなくるりのことを、『図鑑』や『THE WORLD IS MINE』の頃までの作品しか聴いていないリスナーは「変わってしまったな」とか思うのかもしれない。それはある意味では正しいのかもしれないが……僕はそういう言い方をする奴は認めません!僕にとってくるりは、リアルタイムで聴き始めたのは中3の秋に出た『NIKKI』からだけれど、いちばん影響を受けてきた存在だから、もうロキノンジャパンみたいな言い方するけど、共に成長してきたと思ってますから(笑)! というより、成長させられてきたわけですよ。それは僕も少しは歳をとったということでもあるのだけれど。アルバムが出るたびに「うわ、なんだこれ、もうダメかもしれない」と思うんだけど、しばらく聴きこむにつれて「…いや、なるほど、そういうことか…」と納得させられてきたのです。自分語りはほどほどにして、何が言いたいかというと、基本スタンスとして今のくるりも僕は好きだということです。


 で、『ロックンロール・ハネムーン』……トランペットのアラビアンな上昇フレーズとウィンドチャイムが魅惑的で、まずはグッと引き込まれる。この雰囲気、70年代末の音楽だ。ロックンロールはパンクに、ソウルミュージックはディスコに。楽器の変化や録音技術の過渡期がもたらした意欲的な、しかし顧みられることの少ない、ポップスのゴールデンエイジだと僕は思っています。あの時代のレコードはだいたい面白いのでオススメです。


 駆ける馬の蹄の音のような、ロールするドラム。 これ、エレクトリック・ライト・オーケストラじゃん!!エレクトリック・ライト・オーケストラ(通称:ELO)は70年代から80年代にかけて世界的に人気を博したイギリスのロックバンドで、めちゃくちゃヒットしたグループだけれども、そのプログレッシヴな楽曲とメロディセンスからヒネたポップスファンにとってはおなじみの存在ではあるのですが、ELOネタをこの国でやる人はあまりいなくて、奥田民生さんぐらいなんですよね。ユニコーンの『ヒゲとボイン』やPUFFYの『アジアの純真』のドラムロールとボコーダーを使ったシンセサイザーのサウンドはELOです。むしろ、日本では奥田民生印みたいに認知されてあまり手を出さないのかもしれない。どうだろ? ところで、ジェリーフィッシュ(90年代初頭に登場したマニアライクなUSのパワーポップバンド・クイーンみたいなハードなサウンドとコーラスワークが魅力)ネタをやるのも、なぜかやっぱり奥田民生とくるりだけなんですよね。だからやっぱりくるりだったらELOも当然やるよなと思う。そういえば、竹達彩奈の『時空ツアーズ』(作曲:筒美京平)もわかりづらいけどELOネタでした。そのあたりのことはこのブログでも以前、少し触れたので、そちらもぜひ読んでみてください。


 ボコーダー加工されたハーモニーや飛沫するアルペジオ、ポルタメントするシンセサイザーの音を聴いて、やはり『ディスカバリー』1曲目の『シャイン・ラヴ』が元ネタになっていることを確認する。このアルバム、ターバン巻いた男性がジャケットに描かれている作品なので、だからくるりの方のジャケット(タイ人漫画家、ウィスット・ポンニミット・通称タムくんによるもの)でもみんなターバン巻いてるんですね。『シャイン・ラヴ』は当時流行していたディスコビートを取り入れた猛々しい楽曲ですが、『ロックンロール・ハネムーン』はより緩やかなきらびやかさが感じられる雰囲気がいいですね。案外、あだち麗三郎の『ベルリンブルー』を聴いたときの手触りに近い物を感じました。WHOLE LOVE KYOTOでも共演を果たした、ceroの荒内さんが弾きそうなコード感なんですよね。で、全体としては“いなたい”雰囲気を持ちながら、トランペットのメロディが室内楽のような構築的な和声感を演出している。くるりが「リズム&ブルースマナーのチェンバーポップを奏でるバンド」というのはよくわかる。不思議なことに、あまりそういう語られ方はされないですけどね。『ワルツを踊れ』でやったことがあのアルバムだけで完結するわけがないし、クラシカルな和声感はくるりの大きな魅力の一つと言えるのに。ただ、この曲はそれだけじゃなく、ギミックが多く仕掛けられていて、めまぐるしく聴かせてくれる一曲ですね。


 まあでも『ベルリンブルー』を引き合いに出したのは、 異国情緒を感じさせてくれるところなのかな。単純にターバンを巻いているからというのもあるけど、エレクトリックシタールの音とか、アラビアンナイトというか、魔法の絨毯で旅に出る音楽みたいだなと思う。


 『ロックンロール・ハネムーン』は岸田さんの歌声がいいですね。楽曲を通じて、歌い出しの音がいちばん高いから、普通だったらキーの低いAメロからサビにかけてだんだん盛り上げていけばいいんだけど、この曲は頭のところでいきなりお腹に力を入れる必要があるわけですよ。実際、グッと腹を据えるような歌い方をしているように聴こえる。「不安と清々しさが混じり合った」気持ち……それは窓の外に迫っている未来に向けての何かしらの予感(だから、やっぱりこの曲も「出会いと別れ」の歌なんじゃないかなあという気もする)からくるものだとしたら、この歌声は主人公の決心を力強く、一方では頼りなさげに語っているように感じます。安易にトニック解決しないコード進行も、後半の不穏な展開もそういうフィーリングに花を添えている。楽曲がどこに帰着しないということは、旅はまだ続いていくということです。ハネムーンというモチーフを引きながら、新しい旅立ちの音楽をまた届けてくれるというのは嬉しいことですね。流転し続けるバンド、くるり!ツアー中とのことですが、アルバムにも期待がかかります。




2013年6月19日水曜日

『なついろ - 夏の太陽のせいにして』



 もうすでにその片足を汀で濡らしている夏に向け、CDショップにて一十三十一『Surfbank Social Club』、『あまちゃんオリジナルサウンドトラック』、土岐麻子『HEARTBREAKIN'』の3作を購入しました。これらの作品が今年の夏を彩ってくれるであろうことは間違いなし! なのは確かだろうが、その一方でひっそりと(なのか?!どれくらい人気があるのかわからん)リリースされていたのが、今回紹介する、なついろの『夏の太陽のせいにして』というシングルです。


 なついろは、ジャズ歌手として活動していた森川七月が北川加奈、山崎好詩未と共に、そのユニット名の由来にもなっている「夏」をコンセプトにして結成したポップスグループで、かの由緒正しきJ-POPレーベルであるビーイング所属のアーティストとのこと。


 ファーストシングルは日本テレビ系アニメ『名探偵コナン』のオープニングテーマにもなったとのことで、四つ打ちとはいえ、正統派なビーイングサウンドの精髄が感じられる一曲。サウンドというか、パッケージされてる空気感か。保守的な音楽リスナーのなかでもさらに保守的なリスナー(過激右派)でないと、この音にはなかなか反応できないのではないですか。やーだって、こういうショートディレイかかったメジャーペンタ感のあるギターソロとか、こういうサウンドを最後に聴いたのは……『化物語』のするがモンキーの主題歌、神原駿河 (沢城みゆき)が歌う『ambivalent world』かな! しかもあの曲は、『スラムダンク』をはじめとする、ビーイング系アーティストが主題歌を担当していた90年代の少年マンガ原作アニメへのオマージュでしょう。スポーツ少女が主人公だから。


 低音域がふくよかな歌い手だ。サビ、ELTっぽさが頭をよぎるのはなぜ? いま一歩パンチが足りないなと感じる分、持田香織はやはりそれなりに特徴ある歌手だったのだなと思う。


 それにしても気になったのは、この楽曲タイトルが持つ独特の“うるささ”である。「夏の太陽のせいにして」どこがとはうまく言えないが、妙にまどろっこしいタイトルではないか? ファーストシングルの「君の涙にこんなに恋してる」はより一層まどろっこしい。説明が過ぎるのかもしれない。なんというか、暑苦しさを感じてしまう。


 「夏の太陽のせいにして」このフレーズをサビだけでは飽き足らず、あろうことに2コーラス目ではBメロにもこのフレーズを差し込んでいる。さらにMVを確認してもらえればわかるのだが、このフレーズにまつわる演出が過多なのだ。この感じは一体なんだ? この楽曲において、メロディやコードや何よりも先にこのタイトルだけが出来上がっていたのではないか、と思う。おそらくこのセカンドシングルの企画段階から……。関係ないが、ギターウルフはまず最初に楽曲のタイトルを考え、そのタイトルへと最終的に収斂されていくように作詞・作曲をしていくという。セイジ的に最も気合いの入る単語が「ジェット」らしいので、タイトルに「ジェット」が入ってるギターウルフの曲は、そういう曲です。


 公式プロフィールを見ると、いくつか思うところはあるのだが、何より「色々な夏を表現し、よりさわやかで高揚感のある音楽を届けます。」とあるのが目についた。「色々な夏」かあ。自分たちの表現にとっての“コア”の部分を、この「色々」と一言で言い切ってしまう朴訥とした潔さというか、ただただひたむきな人の良さが伺えるところが、なんだか嬉しかった。この人たちなら、他人を疑うようなマネは決してしないのではないだろうか。


それと、ファーストシングルのジャケットには独特の味わい深さがある。






こっちの曲の方がなんとなく良い。

2013年6月5日水曜日

『SMAP - Joy!!』



 SMAP、50枚目のシングル!50枚目ってすごいですよね。サザンでいうと、『愛と欲望の日々』が50枚目だとか。覚えてますか、「大奥」の主題歌だったやつ。B'zは去年出したシングルが50枚目だった模様。モーニング娘。でいうと『One・Two・Three/The 摩天楼ショー』。どれも比較対象として、いまいちピンとこない……


 さて、端的に言って、今回の楽曲「Joy!!」超名曲だと思います。"Yeah!"の掛け声とともにオルガンのスチーミーなリフとビブラフォンのリヴァーヴ感、ボ・ディドリーなビートが合わさればすっかり夏まっさかり。SAKEROCKやceroをはじめとした、昨今の東京インディエキゾチカシーンに慣れ親しんだ耳だったら、一発で入っていけるサウンドです。メロウなコード感も嬉しい。


 そして何より歌詞が良い。生真面目な性格のせいで、社会だったり人間関係のなかで押しつぶされそうになっている現代人の手をそっと取って、太陽の下へと連れ出してくれるような、そんな歌です。これまでの作品でいえば、名曲「SHAKE」と同じヴァイブレーションを持ちつつ、あの頃とは語り手の視点(「SHAKE」では主人公は働き盛りの社会人=物語の渦中にいる人物として設定されていたけれど、「Joy!!」ではもっと俯瞰的な視点が設定されているように感じる)を異なる位置に置くことで、「今現在のSMAP」の立場からしても、自然な語りかけができているように思う。

無駄なことを 一緒にしようよ
忘れかけてた 魔法とは
つまり Joy!! Joy!!
あの頃の僕らを
思い出せ出せ 勿体ぶんな
今すぐ Joy!! Joy!!

 このサビ、めっちゃ泣ける!!!効率主義が行き届いてしまったこの社会で「無駄なことを一緒にしようよ」なんて呼びかけてくれるポップスが存在することの喜び!

どうにかなるさ人生は
明るい歌でも歌っていくのさ
Joy!! Joy!!
あの頃の僕らに
今夜だけでもいいから
朝まで Joy!! Joy!!

 そう、それは束の間のものでかまわないんですよ。音楽があれば、その瞬間だけはつらいことを忘れることができる。朝まで踊り続けることができる。それがすなわち忘れかけられていた"魔法"にほかなりません。人々はその"魔法"のことを、たとえば"ブルース"と呼んでみたり、"ディスコ"と呼んでみたり、"ハウス"と呼んでみたり……手を変え品を変えながら、綿々と営み続けてきたんだと思います。音楽の根源的な喜びと、ひとさじの切なさみたいなものが、この曲にはちゃんと詰まっていると言えるでしょう。




 「Joy!!」の作詞作曲を担当した津野米咲。いったい何者なんだ?と思って調べてみると、なんと昨年EMI Records Japanからメジャーデビューを果たしたばかりのガールズロックバンド、赤い公園のギタリストではないですか。1991年10月2日生まれ、若干21歳のソングライターです。僕より一個下の学年じゃないか……高校の軽音楽部の先輩後輩で結成されたという赤い公園というバンドの存在は知ってはいたけれど、正直よくあるJ-ROCKのバンドというか、とりあえず僕が好んで聴いている音楽とはあまり縁のない存在だろうなと思っていたので、完全にスルーしていた。これを機に何曲かYoutubeで聴いてみたけれど、たしかにいいバンドだな、とは思うものの、でもやっぱりこの「Joy!!」みたいな楽曲とは結びつかない。ちなみに編曲は、菅野よう子さん。うーん、僕なんか死ぬまで菅野よう子さんと一緒にクレジットされることなんかないだろうな……


 SMAPはここ数作、作家陣を一新することで新たな風を入れ込み、新陳代謝を図ってきました。昨年のアルバムでも前山田健一(ヒャダイン)や志磨遼平(ex-毛皮のマリーズ)やROY(The Bawdies)であったり、その前は山口一郎(サカナクション)や永井聖一(相対性理論)などなどといった若いクリエイター(しかも、ロックバンド畑が多い!)を次々と起用した経緯があります。


 ただ、90年代生まれ(SMAPネイティヴ世代だ)で最初にSMAPに楽曲提供をするのはtofubeatsだろうと思っていたんですよ。それは彼の趣向(J-POP)だったり、これまでに成し遂げてきたこと、またシーンの動向から考えて、とても真っ当なことであると思える。なので、ちょっとビックリしましたね(Wikipediaを見ると、津野さんもアイドルソングやJ-POPを愛聴してきたとのことですが)。




 ちなみに今回のシングル、ビビッドオレンジ、ライムグリーン、スカイブルー、ショッキングピンク、レモンイエローの5形態でリリースされ、それぞれ収録内容が微妙に異なるのですが、僕はスカイブルーを選びました。デビュー曲である「Can't Stop!! -Loving-」から今回の「Joy!!」まで、全50タイトルのシングルを繋いだ「Can't Stop SMAP!! ~ 50 Singles Non-Stop Mix」が収録されているからです。全部で30分、息のつく間もほとんどないのですが、これがやはりというか、名曲の数々よ!


 二つ折りのブックレットを開くと、右のページにこれまでのシングルの全タイトルと作詞作曲のクレジットが載っているのですが、これが「SMAPの歴史」そのものなわけですよね。言ってしまえば、この歴史の一部として名を刻まれることは、この国でポップスを作る者にとっては"大きな夢"であるはずです。その碑(いしぶみ)に、平成生まれで最初にたどり着いた津野米咲は、たいした人物だと思います。というか、めちゃくちゃうらやましい。


 あ、それと、あらためて思ったのは、近田春夫先生も『考えるヒット』のなかでおっしゃっていたけれど、SMAPというグループは、たとえばバックストリート・ボーイズとか、最近で言ったらワン・ダイレクションのようなポップボーカルグループじゃなく、あくまでダンスグループであるということです。今回、駆け足ながら全てのシングルを聴き返してみて、最初の30枚くらい(タイトルでいうと、「Fly」「Let It Be」がリリースされるまで)のダンサブル感が半端ないわけですよ!「らいおんハート」で大人向けになったというか、方向性が変わった。ちょうど木村くんが結婚したタイミングのシングルだったし。「世界に一つだけの花」のヒット以降は、様々なクリエイターを起用して試行錯誤しているものの、成果としてはいまひとつであると言えます。山口一郎が作った「Moment」とか、ぜんぜん踊れないでしょ。単純にリズムが面白くないし、サウンドやメロディが醸し出す"湿り気"の方向性は歌謡曲のそれであって、SMAPが元来持っていたフィリー感、ディスコミュージックのそれとはやっぱり違うと思う。でも今回は、この50枚目というメモリアルなタイミングでいいシングルが切れたのは本当に良かったですね。




2013年4月27日土曜日

最近買ったCD〜Mutant Disco Vol.3

最近あんまお金ないんですけど、700円だったので買ってしまいました。
『Various Artist / Mutant Disco, Vol.3』


  ZE recordsという、70年代末から80年代の半ばにかけてNYを拠点に活動していたレーベルのコンピレーションの第三弾。ZE recordsはこちらの記事に詳しく書いてあるけれど、当時いちばんフリーキーだったパンクだったり、ゲイディスコだったり、もしくはニューヨーク・サルサの流れを汲んだ異形の、まさにミュータントなポップミュージックを紹介し続けたレーベル。彼らの音楽は本当に最高だと思います〜いま述べたようなさまざまなスタイルの音楽がひとつに同居していて、先鋭的でもあるし、いまの耳で聴いても(むしろ、いまの耳で聴くと)とってもクールでキャッチー。茶目っ気があって、絶対笑わせてくれる。

 70年代末から80年代の頭にかけての音楽は、パンク〜ニューウェイブ・ポストパンクにディスコにヒップホップ、ワールドミュージックといった、新しい音楽ジャンル(それも、意欲的な)が続々と登場してきたこと、活動上の自由度が高いインディレーベルの存在が大きくなってきたこと、楽器(リズムマシンだったり、シンセサイザー。もしくはエフェクター)や録音における技術的発展があったことなどなど、様々な要因があったとは思いますが、とにかくポップミュージックが一番おもしろかった時代なんじゃないかなって、僕は思います。60年代の大きな夢のあとの、70年代のやぶれかぶれな時期が過ぎていって、またちょっと浮かれだそうとしているような空気も影響してるかもしれない。いろんなことにチャレンジしようとしていたし、そういう実験をポップな方向に帰着させようとする雰囲気があった。だから、いろいろ音楽探してても、「79年作」ってだけで買ったりします。

Kid Creole & The Coconuts

 ZE Recordsの音楽は、CBGBだとかパラダイスガラージといった、いまでは伝説となっている場所でかつて鳴っていた音楽の流れにあります。あの時代、それらの場所、そこに集まる人々、その人たちが表象している文化というのは、社会的な立場は確実に低かったと思います。つまりアンダーグラウンドだった。ゆえに猥雑で、どこかズレている。そんなミュータントな人々の汗だったり、息づかいのようなもの—言い換えれば生きていた証が伝わってくるのが魅力のひとつ。それと、ニューヨークのストリートカルチャーを表現するのに「人種のるつぼ」ということばがよく使われると思うのですが、たとえばヒップホップは黒人たちのものであるように、"それぞれがそれぞれの領分のなかで暮らしている"という感じはあったのかなと思います。ちょうどこの前DVDでみたジョン・セイルズのNYを舞台にした映画『ブラザー・フロム・アナザー・プラネット』で、地下鉄に乗っててハーレムの駅のひとつ前なんかになると、乗客の肌の色がオセロをひっくり返したみたいに変わるというシーンがあったけど、そんな感じ。つまり、「るつぼ」とは言うものの、それぞれはそれぞれに独立していたんじゃないか、ということです。Talking Headsは、ライブに黒人メンバーを混ぜてやったりしてたっけ。あれはどうなんだろうなー、頭のいい白人が都合よく黒人を借りてきたように見えるんだよなー。たしかに素晴らしいけど。ZEの連中は、人種も性別も全然関係ない感じがして、それもいいなって思います。本当の意味でチャンプルーな存在というか。そもそも、ZE創業者であるマイケル・ジルカとミシェル・エステバンはヨーロッパ出身。そんな二人がNYに飛び込んでやってる以上は、自然と混交的になっていくのかもしれない。

Was (Not Was)

 今回買ったコンピレーション第三弾は、SuicideのメンバーであるAlan Vegaの"Outraw"という曲の、August Darnell Remixが気になって購入。オーガスト・ダーネルは、これまたスペーシーでエキゾチックなディスコミュージックでおなじみ、僕の大好きなDr. Buzzard's Original Savannah Band(名曲 "Sunshower"は、小沢健二 "おやすみなさい、仔猫ちゃん!"の元ネタのひとつ)の主宰者であり、Kid Creole & The Coconutsのキッド・クレオールその人です。まあ正直なところ、このトラックは期待したほどでもなかったかな。"移民の歌"を引用したRon Rogers "Maladie d'Amour"や、Kid Creole & The Coconuts "Something Wrong In Paradise (Larry Levan Mix)"とかがよかった。
 
 なかでも耳を引いたのはDaisy Chain "No Time to Stop Believing In Love" ゲートエコーバリバリのスネアとシンセとハードなギターがすんごい微妙な感じのトラックにいきなり日本語で、これまた微妙な感じの歌ともラップともつかないような女性の語りが入ってくる。このとてつもなく微妙な感じが、いまの僕らにはかなりジャストだったりするわけですけど。英語・日本語・フランス語・スペイン語・ドイツ語で歌うシンガー5人で結成された、インターナショナル・ユニットというのがまた……いいですね!キャズ・カワゾエという日本人のメンバーが歌詞を書いて歌っていたと。調べてみると、カワゾエさんによる当時の回顧録を発見。うーん、インターネットってすごい!サイトを作った理由も、当時のエピソードもなんとなくいい。なにより、こういう素晴らしい音源をひとつかふたつ残しつつ、闇に消えていったよくわからんグループというのはたくさんいるけれど、そういう人たちのアフターストーリーというか、その後も続いている人生をこうやってかいま見ることができたのが感動ですよね。日記読んだりして、いまは赤ちゃんタレントのブローカーやってるんだなあ、とか。



Album Review - Various / Mutant Disco Volume 3 - Garage Sale|ele-king
http://www.dommune.com/ele-king/review/album/000260/

特集: ZE RECORDS text by 田中雄二|ototoy
http://ototoy.jp/feature/index.php/20100125

デイジーチェイン・ファンサイト|キャズ・カワゾエ の COMMU☆NET
http://kazkawazoe.com/r_daisychain.html






2013年4月24日水曜日

『上坂すみれ / 七つの海よりキミの海』




 先日インターネットを見ていたら『波打際のむろみさん』というアニメの評判が書かれたブログに行き着いて、その最後に主題歌であるこの曲について少し触れてあって、ニューウェイブがどうとかロシアがどうとか、作曲が神前暁さんであると知って興味が出てきて、『むろみさん』もみてみた。ヤンキーっぽい、純愛至上主義なピュアなギャルの人魚が博多弁で活躍するアニメだった。もちろん人魚だから、SUV乗ってファミレス行ったりラウンドワン行ったりするわけじゃないんだけど。なんかこういう感じのヒロインも珍しいよな〜?とか思いながら見てた。けっこうおもしろいです。

 そんな内容のアニメに対して、この曲はとてもオタクっぽい曲だと思う。妙にサーフなティンパニーとオルガンの音に導かれて80'sジャパニーズニューウェイブ風のヴァース(調性無視のコードの動きなど、ハルメンズの上野耕路さんを意識したとか)にはじまり、スラッシュメタルなブリッジという展開。時おり差し込まれるトランペットが楽しい。ちょっと軍歌っぽいところもある。MVのロシアアヴァンギャルド風のイメージから海軍のイメージも連想されるし……上坂すみれさんが、そういった"秋葉原じゃなくて中野"なカルチャーがもともと好きで、こういう楽曲になっていたみたいです。作詞は畑亜貴さん。「もってけ!セーラーふく」を作ったこのコンビがいかにも得意としてそうな、いろいろなオタクっぽい要素がカオティックに混在しているっていう、いかにも外国人に受けそうなエキセントリックな日本人、という感じの曲。ホント、要素だけあげてみると、いかにも〜って感じがする。だけどこの電波ソングにはどこかゴージャスな響きがある……なんだろう?それが具体的にはイマイチよくわからないのだけど、サーフっぽいところがミソなのかな、という気がする。音の響き的に、この曲はレアい。それと、テンポが早すぎないところ。BPMがあと10とか20くらい早かったら、ヒャダインさんの曲みたいにせわしなくなってたかもしれない。



2013年4月22日月曜日

『ハナエ / Boyz & Girlz』




 今週はRECORD STORE DAYという米国発のレコード店のお祭り週間ということで、日本でもこれに合わせて限定アイテムの発売などがあり、今回はその中から坂本慎太郎さんのリミックスか、安藤明子さんの7inchカットについてにしようかな、と思っていたのですが、当日お店(新宿のディスクユニオン本館)に行ってみたところ、もう遅い時間だったこともあってすでにそれらのレコードは品切れ……だったため、何にも手に入れていません。RECORD STORE DAYって案外盛り上がってるのかなー、日本事務局ができて今年で二年目とのことだけれど、去年は期間が終わってもけっこう残ってたりしたんです。去年は、カーネーション『天国と地獄 / 愛のさざなみ』モノラル7inchを買いました。島倉千代子のジミヘン風轟音名カバーをモノラルで聴いてみたくて。この盤は店によってはいまだに残っているのではないだろうか?

 例のごとくiTunesStoreのニューリリースコーナーを見て、ハナエという歌手が新曲を出していることを知る。ハナエって、あのCSSのLovefoxxのソロか?!と思って飛びついたものの、普通のオシャレな感じの、日本人の女の子だった。このシングル、元相対性理論の真部脩一さん作詞・作曲・編曲ですね。もう誰もが思うだろうけど、相対性理論の曲にしか聴こえないですもの。バンドサウンドではなく打ち込みサウンドとはいえども。相対性理論にしか聴こえないというのことは別にいいと思うんです。相対性理論の各メンバーは、この五年くらいかけて「相対性理論印」みたいなもの、ひとつのポップスの類型、雛形を作り上げた。結局、ポップスの正統性みたいなものは、そうやって広く認知されることでしか証明できないわけです。アメリカのポップスの模倣から始めたはっぴいえんどやティン・パン・アレーの面々は長い年月をかけて、日本のポップスの歴史のなかで"本物"になっていった。YMOやムーンライダーズだってそうだろうし、奥田民生なんかもそうかもしれないし、小沢健二と小山田圭吾のふたりも、洋楽のまがいものから始まって本物になっていったわけですよね。フリッパーズ時代の小山田さんが20年後にオノヨーコや坂本龍一と同じバンドで演奏するなんて誰も想像しなかったはず。だからなんにせよ、こういうひとつの型を作り上げたことは本当にすごいことです。

 それはそうとして、このハナエという女の子はそれでいいのか。ウィキペディアを見てみると、12歳から宅録を始めて、曲を作ってその世界観なりなんなりが認められてデビューしたとある。音楽のほかにも小説やら漫画やら映画やらいろいろ好きで、"コダワリ"がありそうな感じじゃないですか?……美人界でのポストモダン化が進みすぎて、「美人かつクリエイト能力アリ」みたいな人間が跋扈する(日南響子がDTMやってるのが一番ショックだった)このセルフプロデュース盛んな時代。彼女の自作曲を実際に聴いたわけではないけれど、もし能力があるんだったら、単純にひとつの類型にわざわざハマりにいかなくてもいいじゃないかとは思いますよね。「ただそういうのがやってみたかった」のだとしても、少なくともシングルを切ってまでやる必要はないでしょう。どんな事情があってそうなったかも知らないですけどね。おそらく"大人の事情的"な理由からだろうから、それは担当のディレクターたちに「独特の表現を作っていこう」という意欲を持ってほしいところ。美人の人はただでさえ苦労が多いと思うし求められることがどんどん多くなってるけれど、頑張ってほしい。本当はあんまり頑張ってほしくない(美人以外の人の生きる道が減るから)。



 

2013年4月10日水曜日

『あだち麗三郎 / ベルリンブルー』



 あだち麗三郎さんの7インチレコードです。カクバリズムからのリリース。これは久々にいい曲を聴いたなーという感じ、あります。ツイてるー!

 「君の心はとても素敵だからベルリンブルーと呼んでみないか」「マンハッタンはラプソディブルー / あからさまなパノラマ / いつでもここに戻っておいで」音楽ってこういう風に想いを馳せていて欲しいよなって思いますね。再三言われていることながら、世界はずいぶんと狭くなってしまったように思えるけれど、お前は海の向こうにロマンを感じないのか、ということですよ。五木寛之の『青年は荒野をめざす』みたいな、ジャズ青年がひとりで客船に乗って世界を旅して、音楽や恋に出会ったりするなんて一連の流れに!そういうロマンチックなものがわりと僕は好きだったりするんですね。それは小さい頃によく連れていかれた横浜の港の風景がイメージとしてあるのか、ポケモンの「サントアンヌ号」で流れるBGMになぜだか心惹かれるものがあったからなのか……わからないけれど、いまはこういう憧憬みたいなものは、昔の映画とか音楽のなかにしか存在しないのかなと思ってしまいます。いや、思っていました。しかし、ceroの鍵盤奏者、荒内祐さん作曲によるオリエンタルなメロディーは異国情緒をかき立ててくれますね。70年代に細野晴臣さんがやってきたチャンプルーミュージックも、"ここ以外のどこか"に想いを馳せる音楽だったはず。すごい好きだった「北京ダック」とか、ちょっと思い出した。失敗しない生き方の天野さんはツイッターで加藤和彦を引き合いに出していた(気のせいかもしれない)のが印象に残っているけれど、それもなんとなくわかる。どこか洒落ていて、欧米志向なあの感じ。あと、口をあんまり開かずに歌ってそうな感じが似ているんだと思う。

 まあ、あんまり言葉で語りすぎないところがいいんでしょうね。「ベルリンブルー」という言葉だけで旅情みたいなものが十分伝わってきますし。ちなみにベルリンブルーっていうのは紺青色の呼び方のバリエーションのひとつらしいです。この曲はスティールドラムなりチェロなり、楽器がそれぞれソロをとる部分がけっこう長いですよね。メロディが自由に語りはじめるということは、"ここにある音楽"が"古今東西の音楽"へとリンクしようとすることだ。僕らはその音に想いを重ね、想像を巡らすことで、「トリップ」することができるんだと思う。そしてそれは、たしかな技術があってのことだと思います。ホントに、饒舌な音楽です。B面のTUCKERさんのカバーも素晴らしい!








2013年3月20日水曜日

『UKASUKA-G / でも、手を出すな!』














 
 かねてから、サッカージャケの音楽には名作が多いと思ってます。いま思いつく限りでは、たとえば『Sergio Mendes & The New Brasil 77』『Novos Baianos F.C.』などのブラジルもの。サッカーと音楽の国だから当然。特に後者のオス・ノーヴォス・バイアースは、いわゆるヒッピーのコミューン的な思想のもとに集まった集団なのですが、音楽活動と同じ割合でサッカー活動に打ち込んでいたそうです。あとは、イギリスのバンドだったらThe Wedding Present『George Best』とか。ドイツのSpace Kellyというシンガーは、7inchでサッカージャケのものをたくさん出してます。このアルバムもサッカーソングがたくさん入った、ギターポップの名盤です。どうして野球でもバレーボールでもなく、サッカーなのか。それはいまだにわからないけれど、サッカーと音楽の相性は良いらしい。そして、この日本においてその最前線を走るのが……桜井和寿!!!ファンタジスタって言われてぇ男!!!

 Mr.Childrenの桜井さんはもうずいぶん長いことサッカー好きを公言している。ライブDVDの特典映像見るとずっとサッカーしてる。ただ他のメンバーはおそらく野球派なんですよね。元野球部の田原さん(a.k.a.昔野球で鍛えた君の彼氏)筆頭に。だからかミスチルではそこまでサッカー的な表象をジャケなりなんなりで打ち出すことはなかったと思うんですが、イベントで共演し、同じくサッカー好きであったことから意気投合したというGAKU-MCの登場でついに…!今回取り上げたUKASUKA-Gは、GAKU-MCと桜井和寿によるユニットです。反対から読むと、G-AKU SAKU。くだらねえ!

 GAKU-MCと桜井和寿は2006年にも「手を出すな!」というシングルを出していて、コラボレーションは今回で二回目。前回はワールドカップのドイツ大会、今回は来年のブラジル大会を意識したもので、「手を出すな!」のアップデート版を作ろう!という企画ですね。というわけで、「でも、手を出すな!」……基本的には前作をベースに、リリックなり構成なりサウンドなりが大きく変更されています。大歓声のSEとショーの開始を告げる風のアナウンスから始まるイントロ、これがまたチープでなんとも言い難いです。チープというか、絶対に古いんですよ。そこから続くフックのミクスチャーロック風のギターサウンドとか。ひと昔前感がすごいし、なんというか、前作のよかったところだけピンポイントで抽出して無くしました!という感じがする。やっぱり、前作のサンバっていうのはすごいわかりやすかった。ブラジル音楽だから、ベタではあるけどイメージしやすいですよね。ホイッスルやらブラスなんかも賑やかで楽しい。あと「オッオッオー〜」というフレーズは、"競技場でサポーターが一丸となってシンガロングする歌"みたいなイメージだと思うのですが、今回のニューバージョンにも登場しているものの、コードがマイナーキーのちょっと洒落た進行に改められている。そんなセンチメンタルで音楽的に凝ったモンで、みんなでヨッシャーな気持ちで合唱できるか?無理でしょ。シンガロングするのであれば、シンプルにしないと。それとも桜井和寿という男の孤独な叫びなのか。そういえばGAKU-MCの新しいリリックも「あいつも終わった / そう言ってくれたっていいんだぜ / ブーイングや批判のおかげでここまで来たんだぜ」と個人的な内容だ。"ひと昔前っぽくて叙情的で個人的"というと、ロキノン系のダメなロックバンドの曲みたい。なぜわざわざこんなものを作ったのか……???

 もちろん同じようなものを作ってもしょうがないものの、ある程度完成されていた「手を出すな!」に手を出す必要はなかったんじゃないかと思います。似たような路線でも新しい曲を作ってくれた方がまだいい。まったくプロモーションなしで突如リリース、しかも配信限定と、普段ミスチルのCDを買っているような、本当に一般的なリスナー層に触れてもらえる機会があるのかどうかわからん作品ですが、そもそもそこまで売るつもりもないのだろうと思う。



『桜井和寿とGAKU-MCが「UKASUKA-G」結成、第1弾楽曲配信&5月に新イベントも | CINRA.NEThttp://www.cinra.net/news/2013/03/20/000000.php


こちらが前作。もう七年も前なんですね…

2013年3月11日月曜日

『昆虫キッズ / みなしごep』



 3月1日の雨降る夜、ココナッツディスク吉祥寺店で行われたスカートのインストアライブに行ったとき、そのスカートのニューアルバム『ひみつ』と一緒に買った。どちらも店舗限定の先行発売でしたね。この日のライブはお店の規模的に弾き語りだったのだけれど、とてもいいライブで、端的に言って勇気をもらった。途中、スピッツの「ジュテーム?」(『ハヤブサ』収録)のカバーが飛び出す場面もあり、しかもこれが本当にハマッていたので、感激しました。演奏が終わり、ともに店に訪れていた友人たちと近況などしゃべりながら家へと帰って、『ひみつ』と『みなしごep』をそれぞれ再生したとき、また勇気をもらった。

 昨年9月のアルバム『こおったゆめをとかすように』からスタジオ一発録りCD-R盤『BOOTLEG 1226』、そして『みなしごep』とリリースが続いていますね。『BOOTLEG 1226』に収録されていた「新曲B」がだいぶよかったんですけど、今回は収録されずじまいでした。今作はアルバムから漏れた"みなしご"たちを集めたものみたいです。ちなみに「新曲B」は打ち込みのドラムを導入した曲で、そういう曲はすでにアルバムにも入っているけれど、現時点では依然それがバンドの最新のモードなんだろう。

 ところで「あずきくん」を聴いてスピッツっぽさをめちゃくちゃ感じた。カントリー風のリズムにアコギのストロークとぼんやりしたギター、リヴァービーな歌、涼しげなマイナーセブンスコード……『三日月ロック』の頃までのスピッツにはこういう曲があったような気がしますね。歌詞にもモロ出てくる「水色の街」とか。前述のスカートもそうだったけれど、ここ最近のアクトの音楽を聴いていて、なんとなくスピッツとの接点を感じる瞬間が少し前よりも増えてきたような気がする。僕はスピッツは、三本指に入るくらい好きなバンドなので、とても嬉しい。スピッツは「ロビンソン」以降、常に売れ続けているバンドではあるけど、僕らくらいの世代だと中学くらいに「スターゲイザー」のヒット(あいのりの主題歌だったから!)があって、あの辺りが一個大きな入口になってる印象がある。だからその前後のアルバム『色色衣』『三日月ロック』『ハヤブサ』あたりを愛聴していた人たちがいま20代なかばにさしかかってるっていうことなのかなー。

 「胸が焼けるような / 朝焼け浴びて / 冷たい部屋に帰っていく」「花火ばっかに飽きた / アイツとっておきの街へ / ゲームは続くよチャイナタウン / 震えるママの手には」とにかくセンチメンタルですね。センチメンタルさを鮮やかな風景に仮託していたり、ちょっと自閉的な方向に向いていたり、次の街へ移動していたり、まああと細かい言い回し含めて、スピッツだな……と思う。個人的な話、こういう風に曲を作っていけばいいんだな、という気付きもあったから勇気を貰った。スピッツは僕にとっても巨大なルーツのひとつですから。センチメンタルからは逃れられないですよ。この前、紙ele-kingの2012年ベスト号を読んでいて、"日本のバンドはセンチメンタルすぎる"と書いてあって、たしかに、と思ったけどカラッとしたものをやれる気しないからな!僕もヌルッといこうと思った。



2013年3月4日月曜日

『TUCKER&エマーソン北村 / SPECIAL PRESETS』

















 エレクトーン奏者であり、リズムボックスやターンテーブル、ギターやベースの即興演奏パフォーマンスなどを行うTUCKERと、じゃがたらに始まり、EGO-WRAPPIN'やキセルや斉藤和義などのサポートなど数多くの場で活躍するキーボーディスト、エマーソン北村によるスプリット7inch。カクバリズムよりリリース。TUCKERさんは、去年のカクバリズム10周年イベントの際に東京公演でゲスト出演していて、そのとき僕は初めてライブを観ました。あれはすごいライブだった。シーケンスにあわせてリアルタイムでいくつもの楽器をループさせ、そのうえでオルガンを叩き鳴らす。パンクとソウルがぶつかりあったような、エネルギーのかたまりのようなパフォーマンスだった。鍵盤奏者は、あれくらい派手な人が好きだな〜口から火も吹いてたし。先日、月刊ウォンブ!でMC.sirafuさんと共にイルリメさんのサポートで演奏しているのを見たときは、寡黙(というより、あとの二人がよく喋る人たちだからか)かつ、とても柔和な雰囲気だったのが逆に印象的だった。

 エマーソン北村さんも、リズムボックスと古いキーボード機材を使ったソロパフォーマンスをずっと続けている(実際に観たことはまだない)。つまりは、似たようなスタイルの二人がタッグを組んだepだということだ。内容的には、A面B面ともにエキゾチックでメロウでちょっとスペーシーな、インストゥルメンタル。ただそんなに猥雑な感じはなくむしろかわいらしいコンパクトな音で、さわやか〜に聴ける。風が吹く夏の夕暮れ、晩ご飯を食べたあとの小休止……なんてときにはもってこい!なステディな一枚ですね。やっと冬が終わろうとしているばかりではありますが。ライブで見たようなエネルギッシュな音が聴けるのかな?と思っていたので、それに関しては少し残念。それはまたライブを観に行って、実際に体感するのがいいでしょう。

 必ずしもマスト、というわけではないなと思ったけれど、Shuggie Otisや『Personal Space』に最近グッときている自分としては、やはり好きです。というか、リズムボックスっていいよね……スクエアでチープな音に、無性に心惹かれてしまう。このアナログ、あちこちのお店ですでに品切れになってしまっているようですが、JETSETのツイッターアカウントは「また再入荷する」とアナウンスしていました。







2013年2月24日日曜日

シティプラネット

 失敗しない生き方というバンドのことを知ったのは今月の頭くらいで……サウンドクラウドにあがっているのをたまたま聴いて。オザケンの『犬は吠えるがキャラバンは進む』に入ってる何曲かを引き合いに出しながら紹介されてて、たしかにいいバンドだな〜と思った。そうこうしてるうちにモナレコードや吉祥寺のココナッツディスクでCDが売られ始めて、にわかに話題になっているのを感じた。で、この前『story-mode』の追加納品(じりじり売れているようです!)をしにモナレコに行ったときにその『遊星都市』を買って聴いたわけだけど……とても良くて。次の日また改めて聴いてみると、さらに良い。聴くたびに新しい発見があった。どうやら最初に試聴したときに感じた印象というのは、彼らの一側面でしかないようだった。ただのグッドミュージックではなくて、もっと、イジワルなところがある。誰かがツイッターでZE Recordsの音楽と比較していた。ZE Recordsとはミュータントなダンスミュージックやニューウェイブを追求しようとしたレーベルだ……詳しくはリンク先から。サウンドクラウドだけにあがってる "煙たい部屋で / Naked City" は英語タイトル、ジョン・ゾーンだもんな。このポップさとフリーキーさのバランス感覚、めっちゃ羨ましい!すごくはまってしまったので、最近はこれと花澤香菜さんのニューアルバムばっかリピートしてる。
 

2013年2月21日木曜日

『VIDEOTAPEMUSIC - Slumber Party Girl's Diary』



 VIDEOTAPEMUSICは地方のリサイクルショップや閉店したレンタルビデオショップから集めてきたVHS、実家の片隅で忘れられたホームビデオなど、古今東西の様々なVHSの映像をサンプリングすることで映像と音楽を同時に制作している世田谷のアクト。去年のアルバム『7泊8日』は6月の終わりの、今まさに夏に突入しようとするそのときに出たはず。ceroのメンバーややけのはら、MC.sirafuなどが参加したことで評判だったこの作品は特に試聴をするでもなく、同じ頃に出た何枚かのCDと一緒に買って……で、そんなに何回も聴かないうちにコレはかなりいいなと思った。旧作も買ったし。昔のアルバムは廃盤なんだけど、「大阪のサンレインレコーズにまだ在庫がある」と本人がツイートしてるのを見て、授業中にiPhoneから速攻で注文した記憶がある。あの夏、僕はまだ大学生だったんだね。実際、そんなに何回も聴かないうちにコレはいいと思ったと書いたけど、はじめて1、2曲目を聴いた段階で、むしろCDをまだ再生してない段階で既にかなり気に入ってた印象がある。これはだいぶ強い印象として残っている。そして非常に満足したので、その後に何度も聴き返さなかった。9月くらいを境に聴くのをやめたんだった。そういうこともあるもんだ。

 「淀んだ空の下、誰もいない海沿いの道路を車が走っている。車はトンネルへと吸い込まれてゆく……南へ向かう旅が始まろうとしている……画素数の粗い音像は40年前に想像された未来のような、レトロな色彩を帯びている。埃かぶったビデオテープも、サイダーの泡もホテルのスイートルームも。淀んだ風がけだるくてけだるくて、いったいこんなに心が踊らないエキゾティシズムはかつてあっただろうか。僕はいつか『風の歌を聴け』のような音楽を作りたいと思っていたけれど、この作品があればもう十分だと思った。」

 去年の日記に『7泊8日』ついて、僕はこういう風に書いていた。トロピカルでチルでサマーハイでフロートオンでグッドタイムなミュージックは10年代に入るその前後からずいぶんたくさん現れたし、VIDEOTAPEMUSICの音楽ももちろんその類に入るのだろうけど、この音楽の中で鳴っている夏はどれも既に死んでしまっているように聴こえるのがすごいと思う。いや、これは本当にいい意味で。ここにあるものはかつて確実に輝いていたもので、そして今は確実にロストしてしまったものであって、それを取り戻そうとかいうことでもないし、ただ昔こういう時代があった、というような音。村上春樹の『風の歌を聴け』を引き合いに出したけれど、あの小説と同じように、ある一つの閉じられた世界がある。それはあのどうしようもない、けだるい夏の感じ。ドアーズの最初の三枚みたいな……つまりサイケデリックミュージックだと思って僕は聴いているのだけど、本人はどういうつもりで作っているんだろう。

 この7インチは曽我部恵一主宰のROSE RECORDからのリリースで、アルバムから1曲と、そのリミックスが収録されている。どうしてこのタイミングでシングルカットされたのだろう。TUCKERのリミックスは重層的な原曲のレイヤーを剥がし、新たなメロディラインも追加して、端的にいえばよりポップな一曲に仕上がっている。個人的には、封入のDLコードを入力することで聴ける、BETA PANAMA(原曲でもペダルスティールを演奏している)によるカバーバージョンが一番好き。月面歩行の音楽だと僕は思う。無重力のなかで砂埃が舞い上がったみたいなリズムボックス。シンセサイザーの音は、フレアによる電磁波/粒子線の乱れをキャッチしたノイズ。宇宙遊泳が世界の(アメリカとロシアの)見果てぬ大きな夢だった時代もあったらしい、と思い出した。本当にロマンチックな一枚。




2013年1月29日火曜日

『北白川たまこ (洲崎綾) – ドラマチックマーケットライド』




 京都アニメーション今期制作のTVアニメ『たまこまーけっと』、例に漏れず毎週最低二回ずつは観てる。『CUT』での山田尚子監督へのインタビューでもその秘密が触れられていたけれど、多幸感がファンタスティックですよね。ファンタスティックなんて普段絶対に言わないけれど、言ってしまうくらいやられてしまっている今日この頃です!そのOP主題歌であり、主人公である北白川たまこ(洲崎綾)が歌う「ドラマチックマーケットライド」は畳み掛けるような高速ソフトロックともいうべきファンタスティックな一曲。

 CDを買ってきて一曲まるまる通して聴いてまず「情報量がすごいな」と感じた。だけどそれはたとえば”電波ソング”のような、とにかくたくさんの要素がただ詰まっている、というようなものではなく、音楽的に整理されたうえで多くのギミックが仕掛けられているというようなもの。転調に次ぐ転調(とくに、下に貼った動画では聴くことができないが、間奏から大サビにかけての部分は機微に富んだ細かいコードの変化が続く。オーケストラルなベースラインやストリングスがあざやかだ)でセクションごとでもそれぞれキーが異なるのだが、楽曲がブツ切りになるような印象はまったくない。僕も拙いながらもコード進行を拾ってみたのだが、キーとキーをつなぎ方が自然になるように、うまーくぼやかしてあるのがわかった。また、1コーラス目と2コーラス目で細かく構成が違ったりと、昔ながらの職人技というか、そういった数奇者の芸を感じさせるソングライティングだ。

  作曲者の片岡知子さんはInstant Cytronという渋谷系に括られるグループのメンバーで、編曲者である宮川弾さんは安藤裕子などの作品でおなじみ。また、それぞれマニュエル・オブ・エラーズ・アーティスツという音楽制作会社の一員でもある。そのあたりのことは、僕が普段読んで勉強させていただいているブログ、青春ゾンビの記事で触れられている。『たまこまーけっと』の音楽はOP、EDや劇伴も含めてこのマニュエル・オブ・エラーズ・アーティスツ(マニュエラ)が全面的に関わっている。マニュエラはもともと、輸入レコードショップから始まっており、現在も渋谷にSONOTAというショップを構え、コアなモンド、ラウンジ、イージーリスニング、ポップスその他を取り扱っている。『たまこまーけっと』の劇中でも、レコード屋が登場しますね。DVD/Blu-rayの初回特典がそれにちなんで、【第1話劇中歌「My Love's Like」Cage North(紙ジャケット仕様・世界初CD化)】というのもすごい。だって、Cage Northって何さ。そんな人、いないんじゃないのか。「世界初CD化」とはレア盤の再発時にしばしば見られる文句だが、これはある意味真実だし、ある意味フェイクだといえる、と思う……実際のところはまだわかりませんけども。そんなマニアックな意匠が感じられます。

 さて、ソフトロックといえば、その道は深い森のようなもの。知識量が幅を利かすジャンルでもあるし、人によって解釈もまったく異なるので、僕にはうまく語ることのできない世界ではあるのだが……僕が高校の時分、初めてソフトロックというジャンルを認識して聴いたのはRoger Nichols & The Small Circle Of Friends(ロジャニコ)というグループだった。なのでソフトロックというと、ロジャニコのような音楽だと僕は思っている。セルフタイトルのファーストアルバムにはさまざまなタイプの楽曲が収められているけれど、なかでも「Don't Take Your Time」と「Love So Fine」にとても心惹かれたのを覚えている。ガンガン転調しながら疾走するストリングスとブラスとハーモニー。パタパタしたドラムと滑るようなベースライン。「ドラマチックマーケットライド」を聴いたときに、今でも大好きなこれらの曲のことを思い出した。、間奏でトランペットがヴァースのメロディでリードを取るとこなんか、「Don't Take Your Time」そのものじゃないか!イントロのスキャットも、渋谷系を感じる。渋谷系、ここにきて流行ってるな。いま注目が集めている竹達彩奈さんや花澤香奈さんのアルバムも元Cymbalsの沖井礼二さんを筆頭に、渋谷系の流れを汲む面々で制作されるみたいだ。たまたまそういう世代が歳をとって大きな仕事をするようになっただけ、とも言えるけれど、自分の周囲を見てみるとOK?NO!!みたいなグループもいたりして、とても興味深い。

 それにしても、この曲のなかで最も魅力的な部分は、サビ前のドラムフィルだろう。まるまる二小節がドラムのフィルインに割かれている。この焦らしを利かせたブレイクによって、サビがより一層、高く跳躍できるのだと思う。実際、2コーラス目はこのブレイクが半分になっているためか、サビのインパクトはそこまで感じられない。なるべくコンパクトにまとめるのではなく、このような緩急をつけたソングライティングが本当に素晴らしいと思う。マニュエラ代表である山口優さんもtwitterで「やりすぎ」と言っていたが、曲の最後の最後までたくさんの仕掛けがなされている。

 新人声優である洲崎綾さんの歌は、midが強いというか鼻声っぽいというか、トルクがある声をしていると思う。本当にうすーくハモりが入ってる?みたいだからそんな風に聴こえるのかな。ブログをのぞいてみたら「歌が得意ではありません」と自ら書いていたけれど、僕は好きだ。サビの終わりの「♪きらめく場所ね」でところで少ししゃくっているところが本当にいい。多少緊張していても、意気込みが感じられる歌唱が楽曲のテンションに程よくマッチしていたのかもしれない。カップリングの「ともろう」は岡村みどりさん作曲の、スウィング・ジャズ・ボーカル風の楽曲で、こっちはこっちですごいことになっている。シンプルなメロディだからか、リラックスした歌声も聴ける。本当にしかるべきアーティストが、しかるべき資本と環境のもとで作られた、最高のシングルだといえるだろう。




『北白川たまこ(洲崎綾)『ドラマチックマーケットライド』| 青春ゾンビ』
 http://d.hatena.ne.jp/hiko1985/20130125/p1











2013年1月10日木曜日

『竹達彩奈 - 時空ツアーズ』



 昨今、アイドルポップの世界には「楽曲派」という言葉があって、それがどれくらいポピュラーなものなのかわからないのですが、つまりアイドルを追っかけるにあたって「接触(握手会とか)よりも楽曲重視」を標榜としている人たちのことです。彼らからの評価が高いのが、Tomato n' Pineや東京女子流やでんぱ組.incや9nineやライムベリーやlyrical school...といったグループ。枚挙に暇がないほど多くのアクトが様々なスタイルを追求しており、しかも『ミュージックマガジン』みたいなコアな雑誌でも取り上げられるような音楽性で注目を集めています。僕はそういう流れをちゃんとは追ってないのでナンですけども、その道に詳しい人も周囲にたくさんいるので、外から見ていても面白いし、たしかにどのグループも曲がいい。そもそも、アイドルポップってそれこそ歌謡曲の時代から、大人たちが本気で遊びながら作っていて、伝統もあるものですよね。秋元康がプロデュースしてるものは正直どうかなと思うけど(おニャン子の曲も今でも人口に膾炙しているのは「セーラー服をぬがさないで」くらいだし、AKB48の曲も2,3曲くらいしか後世に残らないんじゃないか。今だって思い出せないものね。あの人は音楽に対する愛があまり無い気がする。でも野猿はけっこう好きです)。とにかくそういった伝統が新しいスタイルで、新しい世代のアクトたちによって生み出され、そしてそのシーンが盛り上がっているというのはいいことですね。




 このように多彩なシーンのアイドルポップに対して、声優ポップ(そんな言い方するのだろうか?そもそも、アイドルもアニソンも音楽的には単純にJ-POPに区分される音楽が売り方によってタグがつけられているだけなので、これらの言葉はあくまでシーン的なもののことを指すのだと思う)はあまり聴かれ方に幅がないというか、アニメファンは聴くけれど、それこそ『ミュージックマガジン』みたいな場所でそこまで評価されることはないと思うんですね。坂本真綾さんは表紙になっていたけど、それは菅野よう子や鈴木祥子さんの流れがあるからですよね。だけど、今年はもう少しそういった位相が変化してくるのでは?と感じています。竹達彩奈さんの新しいシングルがリリースされたので、発売日の朝、iTunes Storeで買いました。会社に向かう途中に繰り返し聴いて、このシングル、すごくいいなあ〜と思いました!




 ちょうどこのような記事が出ていて、良かったので紹介します。

『ナタリー - 竹達彩奈×沖井礼二×小林俊太郎「チーム竹達」徹底解析 | ナタリー 』
http://natalie.mu/music/pp/taketatsuayana02




 この記事の冒頭で「竹達彩奈というプロジェクト」について触れられていますが、最初に元シンバルズの沖井礼二さんが迎え入れられた時点で、サウンドの方向が大きく絞られていたと。やろうとしていることがだいぶ明確だったわけですね。それは「今までの声優業界にはあまりなかった音」。末光篤さんによるセカンド『♪の国のアリス』を経て、今作のリードトラックの「時空ツアーズ」があの、筒美京平さんの書き下ろしです。筒美さんは、「ブルー・ライト・ヨコハマ」や「木綿のハンカチーフ」や「また逢う日まで」その他あまたの作品を作った、日本で一番偉いポップス職人のひとりです。去年の11月頃、最初にニュースを聞いたときは驚きました。そしてこれによって、当初に掲げられたコンセプトに関しては相当、歩を進めたなと思うんです。というのは、彼女(のディレクター陣)はプロモーションにあたって、ファーストシングル『Sinfonia! Sinfonia!!!』のときから「誰が制作に関与したか」といった部分を前面に打ち出しているんですね。でも、それってだいぶマニアックじゃないですか?今回にいたっては、竹達さんの公式サイトのトップページに「筒美京平」というトピックが一個ドンとある。それは相当変でしょう。それだけ、筒美京平という存在は大きい……いま勢いのあるアイドルポップの世界でも、これほどの大御所が参加している作品はないはず。せいぜいももクロの布袋さんくらいでしょうか?実はこのプロジェクトは元々、筒美さんからの楽曲提供ありきで、そこに擦り合わせるために一枚目、二枚目の作家が選ばれ、歌手としての像を確立させていったということが鼎談の3ページ目で明かされています。つまりここまでずっと準備していたんですね。たしかに、これまでのシングルも音楽をモチーフとした歌詞でした。まず意識的に「本格的な」「楽曲派向け」の音楽を作り存在感を示す。そして筒美京平というアイコンは、いわばその本格派の最大級ともいえる存在。これはリスナーに対して大きなアピールになったのではないでしょうか。




 もちろん、クレジットだけで音楽を語ってもしょうがない。ただ楽曲に関していえば、やっぱりめちゃくちゃいい。おだやかで自然な譜割りのメロディ、アメリカンポップスを感じさせるハーモニーなど、ちょっとナイアガラっぽさを感じます。そりゃバックコーラスに杉真里さんが参加しているんだから、ナイアガラに聴こえますよね。ベースラインも抑制がきいていて、余裕あるゴージャス感を演出しています。「シンプルなリズムの上にきらびやかなサウンドが乗る」。まさにその通りです。個人的にはAメロ頭がルートでペダルしているのがツボ。カウンターメロディが半音ずつ動く進行や最後のサビでキーがあがるところも含めて、本当に王道中の王道のポップスです。でも、たしかにインタビューで語られていた通り、ここまで王道のポップスって今ほとんどなくて。AKBのいくつかのシングル曲は王道な構造をしていると思うけれど、この曲みたいな贅沢な響きがない。それは歌の録り方や楽曲のテンポ感というのもあると思いますが、なによりちゃんとお金をかけて作ってないからだと思います。ところで、どうして奇妙なシンセやヴォコーダーっぽい音が入ってるのかな?と思ったのですが、Electric Light Orchestraがキーワードとして最初にあったんですね。しかも『電車男』だから、「Twilight」が収録されてる『Time』。だから「時空ツアーズ」なのか!と合点しました。ギターのアルペジオもELO→The Beatlesを感じさせます。




 作詞はいしわたり淳二さん。スーパーカーを解散してからの淳二さんの歌詞はなんか普通だな?と思っていたのですが、面白かったです。サビの頭に「イケメン ナポレオン」や「銀色の宇宙人」って言葉持ってくるあたり、光っています。それこそピンク・レディーとか、昔のポップスにはそういう無茶な単語を大胆に使った曲が多い気がしますね。時間旅行というと、やはりサディスティック・ミカ・バンドの「タイムマシンにおねがい」を連想します。「さぁさ ようこそ!」というラインなど特に「タイムマシンにおねがい」が下敷きになっているのではないでしょうか?ただ、なにより、個人的によかったのが、「マチュピチュ」という単語……『けいおん!!』の「計画!」という回で、竹達さん演じるあずにゃんが「マチュピチュ」がどうしても言えなくて「マツピチュ」と言ってしまうという、まあ、ファンにはおなじみのシーンがあるのですが……この曲でも「マチュピチュ」言えてない!!!僕は感激しました。でもたしかに舌足らずな歌唱って、「大人たちが若い女の子に歌わせてるポップス」では定番のアイテムなので、そういった点でも相性がよかったのかなと思ったり。




 カップリング曲「Hey! MUSIC BOYS & MUSIC GIRLS!」は沖井さんによる楽曲。これもいい曲です。だいぶ遊びのあるサウンドだと思うのですが、聴いていて無理がないところがいいですね。たとえばアイドルポップ、アニソンともにたくさんの楽曲を提供しているヒャダインこと前山田健一さんの曲、どの楽曲も奔放で面白いのですが、力技というか、強引なんですよね。というかアッパーすぎて、楽しいけれどはしゃぎすぎて疲れてしまう感じ。普段聴くぶんには、パッと聴くと気持ちがいい、よく聴くとビックリする、みたいな曲が一番いいと僕は思っています。




 おそらく今年は竹達さんもそうですが、豊崎愛生さんや花澤香菜さんのアルバムも出るのではないかと思います。シングル曲が溜まってきているので。普通に本業でとても人気のある方たちですが、このシーンで最も「楽曲派」を感じています。何が違うのかうまく言えないですけど。鼎談の最後で小林俊太郎さんが語っていますが

……このプロジェクトによって、もっとその垣根が壊れたらいいなというのはすごく感じますね。どうしてもアニメ業界の音楽を「そういうもの」として聴こうとするんですよ。従来の音楽好きは。京平さんのこの曲なら、その垣根を壊してくれるんじゃないかなって。プロジェクト自体もそういうふうに、もっと表に向かって飛び出したいというか。そういう気持ちはありますね。

若い世代のアクトのアルバムが何枚も出てまとまった評価がされれば、このシーンの流れもだいぶ変わってくるのではないかなと思います!とても楽しみです!



2013年1月2日水曜日

普通の会話を愛している

【2012年12月31日】
コミケに行こうか行かないか迷った挙げ句
微妙に寝坊してタイミング的に中途半端になったので行かずじまい。
アマゾンから届いた寛仁親王『ジェントルマンの極意』を読む。
なぜそんな本を読んでいるのか?何かヒントはあるのだろうか…
Francis Bebey『African Electronic Music 1975-1982』が滑り込み到着。
これは12年ベストイシューの三位くらいに入れたい一枚。
カメルーンで生まれフランスに渡ったアフリカ系ギタリストのコンピレーション盤。
ドラムマシーンとワールドミュージックのエッセンスとエレクトロニクスと。
時代の過渡期に生まれたミクスチュアルなポップスは無条件に好き。


年越しそばを食べたあと、新宿のユニオンへ。
今年はもういいだろう、と思っていたけれど、やはりそれなりに漁ってしまう。
まずCLUB MUSIC SHOPに行ったが、soakubeatsはどこに行っても品切れだ。
本館に移動し、地下一階、四階、五階を見て回ることができた。
Cecilia Zabala『Presente Infinito』を割引で買えたのは良かった。
その他、The RAH BandやHarry Nilssonや口ロロなどなどを回収。


新宿を後にして、ceroのカウントダウンライブ@渋谷WWWヘ。
まず会場にいる女子のレベルの高さにおののく。
当代ナンバーワンバンドになるということはこういうことか…!
本人たちはいつもどおり、普通だった。まさに近所の兄ちゃんたちという感じ。
『My Lost City』の曲順に合わせてライブが始まった…




【2013年1月1日】
「roof」のあとカウントダウン。
ここで映像トラブルなどもあって本当にグダグダだったけど、明るく年を迎えた。
2013年一発目が「さん!」なのも嬉しい。

ceroのライブの満足度と演奏の正確さはまったく比例しないと思った。

ライブのあと、女子DJユニット / 褐色の恋人のメンバーたちと話す。
WWWを出ると渋谷の街はもの凄いことになっていた。
一緒に観に来ていたコバヤシが「ceroのライブのムードがぶちこわしだ」と言ったら
後ろからスタスタと歩いてきたカクバリズムの袋を持った男の人が
「同感です!」と絶叫してそのまま去って行ったのが面白かった。
僕は別に危害が加わらない限りは、カオスな状態って好きです。
京王線・小田急線に乗ってホームタウンへと帰った。


駅で別れたあと、僕はそのまま近所の神社に行くことにした。
しかし道に誰ひとり歩いておらず、初詣やってないかな…
と不安になりつつiPhoneの時計を見たら午前3時ちょうど。
神社は山の上にあり道は真っ暗で、こんな丑三つ時に来なきゃよかったと思った瞬間に電池が切れる。
ウオーと思いながら参道を登ったら灯りが見えて、とてもホッとした。
参拝し、お神酒とミカンをいただき、焚き火にあたる。
2012年の最後にceroを見れてよかったし、お参りにもこれてよかった。
2013年も頑張ろうという気持ちになれた。
ここ数日、実は持っていたわだかまりのような気持ちは溶けていった。


目が覚めて、お雑煮を食べる。
我が家のお雑煮は、赤味噌仕立てに丸餅が入っているだけという異常にシンプルなもの。
母は福井出身なのだが、たしかに福井の"かぶら雑煮"は他の地方のものよりシンプル。
それ以上にストレートエッジなお雑煮を僕は28日くらいからずっと楽しみにしていた。
特に何をするでもなく、音楽を聴いたりして一日を過ごす。
ふと、自分がすでに学生でない→映画が1,800円ということに気づいたので
毎月一日は映画を観ることを義務づけようと思い立つ。
今年は、服を買ったり旅行に行ったり、観劇をすることにウェイトを置きたい。
去年は本当にレコードにお金を注いで、それは良かったけど、やり過ぎたと思った。


そういうわけで今日は一日なので、まずは映画を観に行くことにする。
『ルビー・スパークス』が少し気になったので迷ったけれど、時間が際どい。
前作の『リトル・ミス・サンシャイン』は全然好きじゃなかった。
ただ今年はあんまりネガティヴな要素など気にせずに、
人のブログとかツイッターとか見て気になったものには即刻飛びつきたい。
『エヴァQ』をまだ観ていないことに気づいたので、観に行った。
なんと言えばいいのか…本当に評判通りポカーンとしてしまった。

とてもヘヴィな気持ちになったのでScott Walker『Bish Bosch』を聴いて帰った。