2013年2月21日木曜日

『VIDEOTAPEMUSIC - Slumber Party Girl's Diary』



 VIDEOTAPEMUSICは地方のリサイクルショップや閉店したレンタルビデオショップから集めてきたVHS、実家の片隅で忘れられたホームビデオなど、古今東西の様々なVHSの映像をサンプリングすることで映像と音楽を同時に制作している世田谷のアクト。去年のアルバム『7泊8日』は6月の終わりの、今まさに夏に突入しようとするそのときに出たはず。ceroのメンバーややけのはら、MC.sirafuなどが参加したことで評判だったこの作品は特に試聴をするでもなく、同じ頃に出た何枚かのCDと一緒に買って……で、そんなに何回も聴かないうちにコレはかなりいいなと思った。旧作も買ったし。昔のアルバムは廃盤なんだけど、「大阪のサンレインレコーズにまだ在庫がある」と本人がツイートしてるのを見て、授業中にiPhoneから速攻で注文した記憶がある。あの夏、僕はまだ大学生だったんだね。実際、そんなに何回も聴かないうちにコレはいいと思ったと書いたけど、はじめて1、2曲目を聴いた段階で、むしろCDをまだ再生してない段階で既にかなり気に入ってた印象がある。これはだいぶ強い印象として残っている。そして非常に満足したので、その後に何度も聴き返さなかった。9月くらいを境に聴くのをやめたんだった。そういうこともあるもんだ。

 「淀んだ空の下、誰もいない海沿いの道路を車が走っている。車はトンネルへと吸い込まれてゆく……南へ向かう旅が始まろうとしている……画素数の粗い音像は40年前に想像された未来のような、レトロな色彩を帯びている。埃かぶったビデオテープも、サイダーの泡もホテルのスイートルームも。淀んだ風がけだるくてけだるくて、いったいこんなに心が踊らないエキゾティシズムはかつてあっただろうか。僕はいつか『風の歌を聴け』のような音楽を作りたいと思っていたけれど、この作品があればもう十分だと思った。」

 去年の日記に『7泊8日』ついて、僕はこういう風に書いていた。トロピカルでチルでサマーハイでフロートオンでグッドタイムなミュージックは10年代に入るその前後からずいぶんたくさん現れたし、VIDEOTAPEMUSICの音楽ももちろんその類に入るのだろうけど、この音楽の中で鳴っている夏はどれも既に死んでしまっているように聴こえるのがすごいと思う。いや、これは本当にいい意味で。ここにあるものはかつて確実に輝いていたもので、そして今は確実にロストしてしまったものであって、それを取り戻そうとかいうことでもないし、ただ昔こういう時代があった、というような音。村上春樹の『風の歌を聴け』を引き合いに出したけれど、あの小説と同じように、ある一つの閉じられた世界がある。それはあのどうしようもない、けだるい夏の感じ。ドアーズの最初の三枚みたいな……つまりサイケデリックミュージックだと思って僕は聴いているのだけど、本人はどういうつもりで作っているんだろう。

 この7インチは曽我部恵一主宰のROSE RECORDからのリリースで、アルバムから1曲と、そのリミックスが収録されている。どうしてこのタイミングでシングルカットされたのだろう。TUCKERのリミックスは重層的な原曲のレイヤーを剥がし、新たなメロディラインも追加して、端的にいえばよりポップな一曲に仕上がっている。個人的には、封入のDLコードを入力することで聴ける、BETA PANAMA(原曲でもペダルスティールを演奏している)によるカバーバージョンが一番好き。月面歩行の音楽だと僕は思う。無重力のなかで砂埃が舞い上がったみたいなリズムボックス。シンセサイザーの音は、フレアによる電磁波/粒子線の乱れをキャッチしたノイズ。宇宙遊泳が世界の(アメリカとロシアの)見果てぬ大きな夢だった時代もあったらしい、と思い出した。本当にロマンチックな一枚。




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