2013年1月29日火曜日

『北白川たまこ (洲崎綾) – ドラマチックマーケットライド』




 京都アニメーション今期制作のTVアニメ『たまこまーけっと』、例に漏れず毎週最低二回ずつは観てる。『CUT』での山田尚子監督へのインタビューでもその秘密が触れられていたけれど、多幸感がファンタスティックですよね。ファンタスティックなんて普段絶対に言わないけれど、言ってしまうくらいやられてしまっている今日この頃です!そのOP主題歌であり、主人公である北白川たまこ(洲崎綾)が歌う「ドラマチックマーケットライド」は畳み掛けるような高速ソフトロックともいうべきファンタスティックな一曲。

 CDを買ってきて一曲まるまる通して聴いてまず「情報量がすごいな」と感じた。だけどそれはたとえば”電波ソング”のような、とにかくたくさんの要素がただ詰まっている、というようなものではなく、音楽的に整理されたうえで多くのギミックが仕掛けられているというようなもの。転調に次ぐ転調(とくに、下に貼った動画では聴くことができないが、間奏から大サビにかけての部分は機微に富んだ細かいコードの変化が続く。オーケストラルなベースラインやストリングスがあざやかだ)でセクションごとでもそれぞれキーが異なるのだが、楽曲がブツ切りになるような印象はまったくない。僕も拙いながらもコード進行を拾ってみたのだが、キーとキーをつなぎ方が自然になるように、うまーくぼやかしてあるのがわかった。また、1コーラス目と2コーラス目で細かく構成が違ったりと、昔ながらの職人技というか、そういった数奇者の芸を感じさせるソングライティングだ。

  作曲者の片岡知子さんはInstant Cytronという渋谷系に括られるグループのメンバーで、編曲者である宮川弾さんは安藤裕子などの作品でおなじみ。また、それぞれマニュエル・オブ・エラーズ・アーティスツという音楽制作会社の一員でもある。そのあたりのことは、僕が普段読んで勉強させていただいているブログ、青春ゾンビの記事で触れられている。『たまこまーけっと』の音楽はOP、EDや劇伴も含めてこのマニュエル・オブ・エラーズ・アーティスツ(マニュエラ)が全面的に関わっている。マニュエラはもともと、輸入レコードショップから始まっており、現在も渋谷にSONOTAというショップを構え、コアなモンド、ラウンジ、イージーリスニング、ポップスその他を取り扱っている。『たまこまーけっと』の劇中でも、レコード屋が登場しますね。DVD/Blu-rayの初回特典がそれにちなんで、【第1話劇中歌「My Love's Like」Cage North(紙ジャケット仕様・世界初CD化)】というのもすごい。だって、Cage Northって何さ。そんな人、いないんじゃないのか。「世界初CD化」とはレア盤の再発時にしばしば見られる文句だが、これはある意味真実だし、ある意味フェイクだといえる、と思う……実際のところはまだわかりませんけども。そんなマニアックな意匠が感じられます。

 さて、ソフトロックといえば、その道は深い森のようなもの。知識量が幅を利かすジャンルでもあるし、人によって解釈もまったく異なるので、僕にはうまく語ることのできない世界ではあるのだが……僕が高校の時分、初めてソフトロックというジャンルを認識して聴いたのはRoger Nichols & The Small Circle Of Friends(ロジャニコ)というグループだった。なのでソフトロックというと、ロジャニコのような音楽だと僕は思っている。セルフタイトルのファーストアルバムにはさまざまなタイプの楽曲が収められているけれど、なかでも「Don't Take Your Time」と「Love So Fine」にとても心惹かれたのを覚えている。ガンガン転調しながら疾走するストリングスとブラスとハーモニー。パタパタしたドラムと滑るようなベースライン。「ドラマチックマーケットライド」を聴いたときに、今でも大好きなこれらの曲のことを思い出した。、間奏でトランペットがヴァースのメロディでリードを取るとこなんか、「Don't Take Your Time」そのものじゃないか!イントロのスキャットも、渋谷系を感じる。渋谷系、ここにきて流行ってるな。いま注目が集めている竹達彩奈さんや花澤香奈さんのアルバムも元Cymbalsの沖井礼二さんを筆頭に、渋谷系の流れを汲む面々で制作されるみたいだ。たまたまそういう世代が歳をとって大きな仕事をするようになっただけ、とも言えるけれど、自分の周囲を見てみるとOK?NO!!みたいなグループもいたりして、とても興味深い。

 それにしても、この曲のなかで最も魅力的な部分は、サビ前のドラムフィルだろう。まるまる二小節がドラムのフィルインに割かれている。この焦らしを利かせたブレイクによって、サビがより一層、高く跳躍できるのだと思う。実際、2コーラス目はこのブレイクが半分になっているためか、サビのインパクトはそこまで感じられない。なるべくコンパクトにまとめるのではなく、このような緩急をつけたソングライティングが本当に素晴らしいと思う。マニュエラ代表である山口優さんもtwitterで「やりすぎ」と言っていたが、曲の最後の最後までたくさんの仕掛けがなされている。

 新人声優である洲崎綾さんの歌は、midが強いというか鼻声っぽいというか、トルクがある声をしていると思う。本当にうすーくハモりが入ってる?みたいだからそんな風に聴こえるのかな。ブログをのぞいてみたら「歌が得意ではありません」と自ら書いていたけれど、僕は好きだ。サビの終わりの「♪きらめく場所ね」でところで少ししゃくっているところが本当にいい。多少緊張していても、意気込みが感じられる歌唱が楽曲のテンションに程よくマッチしていたのかもしれない。カップリングの「ともろう」は岡村みどりさん作曲の、スウィング・ジャズ・ボーカル風の楽曲で、こっちはこっちですごいことになっている。シンプルなメロディだからか、リラックスした歌声も聴ける。本当にしかるべきアーティストが、しかるべき資本と環境のもとで作られた、最高のシングルだといえるだろう。




『北白川たまこ(洲崎綾)『ドラマチックマーケットライド』| 青春ゾンビ』
 http://d.hatena.ne.jp/hiko1985/20130125/p1











1 件のコメント:

  1. この曲めっちゃ好きなんですけど、こんな細かくわかりやすく解説してあってためになりました。

    実は去年、この記事のおかげでDon't take your timeと渋谷系を知ったんです。
    あれ以来、flipper's guitarとか中塚武とかいろいろ聞く幅が広がりました。

    こうやって、どこがどう好きかを言語化できるといい曲ももっと探しやすいんだろうなーと思います。

    僕は、劇中BGMのおセンチたまこがとても好きです

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