2011年に加入したギタリスト、吉田省念が脱退し、三人体制となったくるりの最初のシングル。iTunes Store限定で配信がスタートしたので、さっそく購入しました。くるりというバンドにおいてドラマーはハードルが高いポスト(そのあたりのことは今日ちょっとだけツイッターの方に書きました)なのでともかく、ギタリストはキャラクターが大事なのかなと思っていたので、四人体制は安定して続くんじゃないかと思っていたけれど、アルバム一枚だけで終わっちゃいましたね。
ここ数年のくるりは、レフトフィールドのロックバンドという立ち位置から、大衆歌謡へと役割をシフトさせながら(NHKドラマの主題歌を担当するなんて『図鑑』の頃に誰が想像しただろう)、中堅として上の世代、同世代、下の世代それぞれとともに穏やかな交流を謳歌しているように見えます。まあ言ってしまえば歳をとったということですよ。さすがに、岸田繁を含めたメンバー全員がわいわいツイッターをする未来が来るとは思わなかった。そんなくるりのことを、『図鑑』や『THE WORLD IS MINE』の頃までの作品しか聴いていないリスナーは「変わってしまったな」とか思うのかもしれない。それはある意味では正しいのかもしれないが……僕はそういう言い方をする奴は認めません!僕にとってくるりは、リアルタイムで聴き始めたのは中3の秋に出た『NIKKI』からだけれど、いちばん影響を受けてきた存在だから、もうロキノンジャパンみたいな言い方するけど、共に成長してきたと思ってますから(笑)! というより、成長させられてきたわけですよ。それは僕も少しは歳をとったということでもあるのだけれど。アルバムが出るたびに「うわ、なんだこれ、もうダメかもしれない」と思うんだけど、しばらく聴きこむにつれて「…いや、なるほど、そういうことか…」と納得させられてきたのです。自分語りはほどほどにして、何が言いたいかというと、基本スタンスとして今のくるりも僕は好きだということです。
で、『ロックンロール・ハネムーン』……トランペットのアラビアンな上昇フレーズとウィンドチャイムが魅惑的で、まずはグッと引き込まれる。この雰囲気、70年代末の音楽だ。ロックンロールはパンクに、ソウルミュージックはディスコに。楽器の変化や録音技術の過渡期がもたらした意欲的な、しかし顧みられることの少ない、ポップスのゴールデンエイジだと僕は思っています。あの時代のレコードはだいたい面白いのでオススメです。
駆ける馬の蹄の音のような、ロールするドラム。 これ、エレクトリック・ライト・オーケストラじゃん!!エレクトリック・ライト・オーケストラ(通称:ELO)は70年代から80年代にかけて世界的に人気を博したイギリスのロックバンドで、めちゃくちゃヒットしたグループだけれども、そのプログレッシヴな楽曲とメロディセンスからヒネたポップスファンにとってはおなじみの存在ではあるのですが、ELOネタをこの国でやる人はあまりいなくて、奥田民生さんぐらいなんですよね。ユニコーンの『ヒゲとボイン』やPUFFYの『アジアの純真』のドラムロールとボコーダーを使ったシンセサイザーのサウンドはELOです。むしろ、日本では奥田民生印みたいに認知されてあまり手を出さないのかもしれない。どうだろ? ところで、ジェリーフィッシュ(90年代初頭に登場したマニアライクなUSのパワーポップバンド・クイーンみたいなハードなサウンドとコーラスワークが魅力)ネタをやるのも、なぜかやっぱり奥田民生とくるりだけなんですよね。だからやっぱりくるりだったらELOも当然やるよなと思う。そういえば、竹達彩奈の『時空ツアーズ』(作曲:筒美京平)もわかりづらいけどELOネタでした。そのあたりのことはこのブログでも以前、少し触れたので、そちらもぜひ読んでみてください。
ボコーダー加工されたハーモニーや飛沫するアルペジオ、ポルタメントするシンセサイザーの音を聴いて、やはり『ディスカバリー』1曲目の『シャイン・ラヴ』が元ネタになっていることを確認する。このアルバム、ターバン巻いた男性がジャケットに描かれている作品なので、だからくるりの方のジャケット(タイ人漫画家、ウィスット・ポンニミット・通称タムくんによるもの)でもみんなターバン巻いてるんですね。『シャイン・ラヴ』は当時流行していたディスコビートを取り入れた猛々しい楽曲ですが、『ロックンロール・ハネムーン』はより緩やかなきらびやかさが感じられる雰囲気がいいですね。案外、あだち麗三郎の『ベルリンブルー』を聴いたときの手触りに近い物を感じました。WHOLE LOVE KYOTOでも共演を果たした、ceroの荒内さんが弾きそうなコード感なんですよね。で、全体としては“いなたい”雰囲気を持ちながら、トランペットのメロディが室内楽のような構築的な和声感を演出している。くるりが「リズム&ブルースマナーのチェンバーポップを奏でるバンド」というのはよくわかる。不思議なことに、あまりそういう語られ方はされないですけどね。『ワルツを踊れ』でやったことがあのアルバムだけで完結するわけがないし、クラシカルな和声感はくるりの大きな魅力の一つと言えるのに。ただ、この曲はそれだけじゃなく、ギミックが多く仕掛けられていて、めまぐるしく聴かせてくれる一曲ですね。
まあでも『ベルリンブルー』を引き合いに出したのは、 異国情緒を感じさせてくれるところなのかな。単純にターバンを巻いているからというのもあるけど、エレクトリックシタールの音とか、アラビアンナイトというか、魔法の絨毯で旅に出る音楽みたいだなと思う。
くるりは出会いと別れを沢山歌っていて、ほとんどの曲がそうなのかもしれません。でも、この曲はなんだか少し違う気がします。もっと渦中の、不安と清々しさが混じり合う、ハネムーンのような曲です。
— 岸田繁 shigeru kishida (@Kishida_Qrl) June 26, 2013
『ロックンロール・ハネムーン』は岸田さんの歌声がいいですね。楽曲を通じて、歌い出しの音がいちばん高いから、普通だったらキーの低いAメロからサビにかけてだんだん盛り上げていけばいいんだけど、この曲は頭のところでいきなりお腹に力を入れる必要があるわけですよ。実際、グッと腹を据えるような歌い方をしているように聴こえる。「不安と清々しさが混じり合った」気持ち……それは窓の外に迫っている未来に向けての何かしらの予感(だから、やっぱりこの曲も「出会いと別れ」の歌なんじゃないかなあという気もする)からくるものだとしたら、この歌声は主人公の決心を力強く、一方では頼りなさげに語っているように感じます。安易にトニック解決しないコード進行も、後半の不穏な展開もそういうフィーリングに花を添えている。楽曲がどこに帰着しないということは、旅はまだ続いていくということです。ハネムーンというモチーフを引きながら、新しい旅立ちの音楽をまた届けてくれるというのは嬉しいことですね。流転し続けるバンド、くるり!ツアー中とのことですが、アルバムにも期待がかかります。