2013年6月5日水曜日

『SMAP - Joy!!』



 SMAP、50枚目のシングル!50枚目ってすごいですよね。サザンでいうと、『愛と欲望の日々』が50枚目だとか。覚えてますか、「大奥」の主題歌だったやつ。B'zは去年出したシングルが50枚目だった模様。モーニング娘。でいうと『One・Two・Three/The 摩天楼ショー』。どれも比較対象として、いまいちピンとこない……


 さて、端的に言って、今回の楽曲「Joy!!」超名曲だと思います。"Yeah!"の掛け声とともにオルガンのスチーミーなリフとビブラフォンのリヴァーヴ感、ボ・ディドリーなビートが合わさればすっかり夏まっさかり。SAKEROCKやceroをはじめとした、昨今の東京インディエキゾチカシーンに慣れ親しんだ耳だったら、一発で入っていけるサウンドです。メロウなコード感も嬉しい。


 そして何より歌詞が良い。生真面目な性格のせいで、社会だったり人間関係のなかで押しつぶされそうになっている現代人の手をそっと取って、太陽の下へと連れ出してくれるような、そんな歌です。これまでの作品でいえば、名曲「SHAKE」と同じヴァイブレーションを持ちつつ、あの頃とは語り手の視点(「SHAKE」では主人公は働き盛りの社会人=物語の渦中にいる人物として設定されていたけれど、「Joy!!」ではもっと俯瞰的な視点が設定されているように感じる)を異なる位置に置くことで、「今現在のSMAP」の立場からしても、自然な語りかけができているように思う。

無駄なことを 一緒にしようよ
忘れかけてた 魔法とは
つまり Joy!! Joy!!
あの頃の僕らを
思い出せ出せ 勿体ぶんな
今すぐ Joy!! Joy!!

 このサビ、めっちゃ泣ける!!!効率主義が行き届いてしまったこの社会で「無駄なことを一緒にしようよ」なんて呼びかけてくれるポップスが存在することの喜び!

どうにかなるさ人生は
明るい歌でも歌っていくのさ
Joy!! Joy!!
あの頃の僕らに
今夜だけでもいいから
朝まで Joy!! Joy!!

 そう、それは束の間のものでかまわないんですよ。音楽があれば、その瞬間だけはつらいことを忘れることができる。朝まで踊り続けることができる。それがすなわち忘れかけられていた"魔法"にほかなりません。人々はその"魔法"のことを、たとえば"ブルース"と呼んでみたり、"ディスコ"と呼んでみたり、"ハウス"と呼んでみたり……手を変え品を変えながら、綿々と営み続けてきたんだと思います。音楽の根源的な喜びと、ひとさじの切なさみたいなものが、この曲にはちゃんと詰まっていると言えるでしょう。




 「Joy!!」の作詞作曲を担当した津野米咲。いったい何者なんだ?と思って調べてみると、なんと昨年EMI Records Japanからメジャーデビューを果たしたばかりのガールズロックバンド、赤い公園のギタリストではないですか。1991年10月2日生まれ、若干21歳のソングライターです。僕より一個下の学年じゃないか……高校の軽音楽部の先輩後輩で結成されたという赤い公園というバンドの存在は知ってはいたけれど、正直よくあるJ-ROCKのバンドというか、とりあえず僕が好んで聴いている音楽とはあまり縁のない存在だろうなと思っていたので、完全にスルーしていた。これを機に何曲かYoutubeで聴いてみたけれど、たしかにいいバンドだな、とは思うものの、でもやっぱりこの「Joy!!」みたいな楽曲とは結びつかない。ちなみに編曲は、菅野よう子さん。うーん、僕なんか死ぬまで菅野よう子さんと一緒にクレジットされることなんかないだろうな……


 SMAPはここ数作、作家陣を一新することで新たな風を入れ込み、新陳代謝を図ってきました。昨年のアルバムでも前山田健一(ヒャダイン)や志磨遼平(ex-毛皮のマリーズ)やROY(The Bawdies)であったり、その前は山口一郎(サカナクション)や永井聖一(相対性理論)などなどといった若いクリエイター(しかも、ロックバンド畑が多い!)を次々と起用した経緯があります。


 ただ、90年代生まれ(SMAPネイティヴ世代だ)で最初にSMAPに楽曲提供をするのはtofubeatsだろうと思っていたんですよ。それは彼の趣向(J-POP)だったり、これまでに成し遂げてきたこと、またシーンの動向から考えて、とても真っ当なことであると思える。なので、ちょっとビックリしましたね(Wikipediaを見ると、津野さんもアイドルソングやJ-POPを愛聴してきたとのことですが)。




 ちなみに今回のシングル、ビビッドオレンジ、ライムグリーン、スカイブルー、ショッキングピンク、レモンイエローの5形態でリリースされ、それぞれ収録内容が微妙に異なるのですが、僕はスカイブルーを選びました。デビュー曲である「Can't Stop!! -Loving-」から今回の「Joy!!」まで、全50タイトルのシングルを繋いだ「Can't Stop SMAP!! ~ 50 Singles Non-Stop Mix」が収録されているからです。全部で30分、息のつく間もほとんどないのですが、これがやはりというか、名曲の数々よ!


 二つ折りのブックレットを開くと、右のページにこれまでのシングルの全タイトルと作詞作曲のクレジットが載っているのですが、これが「SMAPの歴史」そのものなわけですよね。言ってしまえば、この歴史の一部として名を刻まれることは、この国でポップスを作る者にとっては"大きな夢"であるはずです。その碑(いしぶみ)に、平成生まれで最初にたどり着いた津野米咲は、たいした人物だと思います。というか、めちゃくちゃうらやましい。


 あ、それと、あらためて思ったのは、近田春夫先生も『考えるヒット』のなかでおっしゃっていたけれど、SMAPというグループは、たとえばバックストリート・ボーイズとか、最近で言ったらワン・ダイレクションのようなポップボーカルグループじゃなく、あくまでダンスグループであるということです。今回、駆け足ながら全てのシングルを聴き返してみて、最初の30枚くらい(タイトルでいうと、「Fly」「Let It Be」がリリースされるまで)のダンサブル感が半端ないわけですよ!「らいおんハート」で大人向けになったというか、方向性が変わった。ちょうど木村くんが結婚したタイミングのシングルだったし。「世界に一つだけの花」のヒット以降は、様々なクリエイターを起用して試行錯誤しているものの、成果としてはいまひとつであると言えます。山口一郎が作った「Moment」とか、ぜんぜん踊れないでしょ。単純にリズムが面白くないし、サウンドやメロディが醸し出す"湿り気"の方向性は歌謡曲のそれであって、SMAPが元来持っていたフィリー感、ディスコミュージックのそれとはやっぱり違うと思う。でも今回は、この50枚目というメモリアルなタイミングでいいシングルが切れたのは本当に良かったですね。




1 件のコメント:

  1. 21歳って、若いですね。

    ぶっちゃけ倍くらいの年の人の作詞作曲かと思ってましたw

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